全 情 報

ID番号 03649
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 茨城交通事件
争点
事案概要  バス乗務員の料金不正取得を防止するために設けられた所持金証明書を携帯せずに私金を所持していたこと、金銭両替器からタバコ銭を取り出したこと等を理由とするバス乗務員の懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査
裁判年月日 1972年11月16日
裁判所名 水戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ヨ) 224 
裁判結果 却下(控訴)
出典 時報705号112頁/タイムズ288号273頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-所持品検査〕
 所持金証明書制度につき検討を加えてみると、証人Aも証言するように、その目的は公私の混同を排して職場秩序を維持することにあると解せられるが、その積極的な意義はむしろ、乗務員の自発的申告によりその業務責任に対する自覚を表明し債務者の信頼に応えるという点にあるものと認めるのが相当である。以上の点にかんがみるとき、債権者が前述のように僅か数カ月の間に債務者に対する背信行為を反復累行したことはその情状重きものといわなければならない。
 (二) 債権者は上来説明したように、八月二六日にも前同様の背信行為に出たばかりでなく、遂に前述のように乗客三名のいる車内で公金の着服を敢行したのである。もっともその着服した金額は一〇〇円にすぎないが、バスによる旅客運送事業における収益は料金収入に依存しているにもかかわらず、乗務員の料金収納の業務は前述のように上司の直接の監督をはなれて遂行されるばかりでなく、僅か一〇〇円であるからといってこれを軽視すると、それより少額の料金の軽視にも連なり、他の乗務員に対する影響も決して無視するわけにはいかないのであって企業秩序の上から考えても看過することは許されないものといわなければならない。
 (三) のみならず、債権者は前示のとおり八月二八日始末書を提出して、八月二六日における前記服務紀律違反の事実を認め、将来二度と繰返さないことを誓約しておきながら、同日またもや前同様の違反行為を行なっているのである。
 以上のようなわけで、債権者、債務者間の信頼関係は債権者の度重なる背信行為により最早維持しがたい状態にたちいたっているばかりでなく、企業秩序の上に及ぼした影響もまた決して看過するわけにはいかないのである。してみると、債務者が就業規則第六九条第一号第四号に定める懲戒事由に該当するものとして同第七〇条を適用して行なった本件懲戒解雇は、債務者においてやむをえない措置としてなされたものとみることができるから、これをもって懲戒権の濫用と認めることはいまだ困難である。