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ID番号 03651
事件名 懲戒解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 日本軽金属事件
争点
事案概要  社員の海外留学につき留学終了後五年以内に退職したときは費用を返納すべき旨の規則をおいている会社において、海外留学中の社員が留学期間満了直前に退職の申し出をしたケースで、会社が右退職申し入れを拒否したうえで懲戒解雇し、その効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法27条
民法627条1項
労働基準法89条1項9号
体系項目 退職 / 任意退職
解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
裁判年月日 1972年11月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ワ) 8053 
裁判結果 一部認容・却下(確定)
出典 時報706号99頁
審級関係
評釈論文 青木宗也・判例評論182号33頁/藤田若雄・ジュリスト553号142頁
判決理由 〔解雇-解雇と争訟〕
 右留学規則には、第一八条に留学に関する費用の返納について、「留学中にまたは留学社員であったものが留学終了後五年以内に、退職もしくは解雇されたときは、留学費用の全部または一部を返納させることがある」旨規定していること(ちなみに《証拠略》によれば、原告は前記誓約書において右費用の返納についても誓約していることが認められる。)が認められ、この点からすれば留学中ないし留学終了直後の退職を認めないわけではなく、ただかかる時期に退職した場合には、留学費用を返納させるという形で処理することを定めているものとみるべきである(ちなみに本件の場合、原告が留学費用を返済したことは当事者間に争いがない。)。また被告において留学社員に対し留学終了後一定期間の勤続義務を課すのであれば、海外留学規則中にその旨明確な規定を設けるかないし明示の合意をすべきところ、かかる規定ないし合意の存在は認められず、海外留学規則の前記規定や右誓約によるも、原告が被告との間に留学終了後一定期間の勤続ないし退職申出をしないことを約したものと認めることは困難である。元来原、被告間の雇用契約は期間の定めなき雇用契約であり、海外留学社員は留学に伴ない、被告に対し海外留学規則所定の右留学成果報告義務等特別な服務義務を負うことに合意したことは明らかであるが、それ以上に留学終了後一定期間の勤務継続を約したものと認めるべき根拠は見出し難いのである。
〔退職-任意退職〕
 被告会社の社員就業規則第二六条三項は「社員は所定の退職願を会社に提出し、許可あるまで勤務を継続しなければならない」旨規定していること、被告会社が原告の退職申出を許可しなかったことは前記認定のとおりである。
 右規定の趣旨および適用範囲については、社員が合意解約の申出をした場合は当然のことであるし、解約の申入をした場合でも民法六二七条二項所定の期間内に退職を許可するについても問題の余地はないが、それ以上に右解約予告期間経過後においてもなお解約の申入の効力発生を使用者の許可(承認)にかからしめる特約であるとするならば、その有効性は問題である。もしこれを許容するときは、使用者の許可あるまで労働者は退職しえないことになり、労働者が解約により契約から解放される自由を制約することになるから、かかる趣旨の特約としては無効と解するのが相当である。
 したがって、本件の場合、右就業規則の許可がないからといって原告のした解約申入れの効果が生じないとはいえず、被告の右主張は採用できない。
 (中略)
 しかし、労働者は本来退職の自由を有し、退職について格別の理由を要しないものと解されるから、権利乱用を認めうる余地はないと考えられるし、かりにそうでないとしても、海外留学中という特殊事情や、原告のなした解約申入れの動機、経緯等前記認定の諸事情を綜合考慮しても、被用者の退職の自由という前提は動かしがたいものである以上、原告の解約申入れを信義則違反、権利乱用と断ずることはできない。
 (中略)
 原告は、被告のした本件解雇の無効確認をも訴求しているので、その適否について考える。
 このような過去の法律行為ないし法律事実であっても、当該法律行為の無効を前提として生ずべき現在の権利または法律関係の確認を訴求する趣旨であって、かつ原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有し、それが争いある権利関係につき有効適切なものであるときは、適法と解しうる余地がある。しかし、本件の場合、原告は雇用契約の終了を前提としていることはその訴旨から明らかであって(換言すれば、雇用関係の不存在については当事者間に争いがない。)、雇用契約自体から生ずべき現在の具体的権利関係としては単に退職金請求権の存否が問題となるのみであり、懲戒解雇されたことにより就職の妨げとなったとかあるいは名誉信用を害されたとかいうことは単なる事実上の利益にとどまり、確認の法的利益たりえないものと解すべきである。
 これに対し、本訴は端的に、制裁処分たる懲戒解雇による名誉、信用等人格権の侵害を回復することを目的とするものと捉え(一種の妨害排除請求と構成)、かつ当事者間の紛争解決に資するとして、確認の利益を肯定する見解も考えられよう。しかし、懲戒解雇が不法行為に該当する場合、その法的救済手段としてなら格別、そのような目的は法が本来予定する確認訴訟の枠(ないし機能)を超えるものという外ないから(すなわち、解雇無効確認訴訟は雇用契約自体から生ずる権利関係の確認を目的とする。)、右見解には賛成できない。したがって、被告のした本件解雇の無効確認を求める訴えは不適法といわなければならない。