ID番号 | : | 03657 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 石川島播磨重工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 首相訪米阻止闘争に参加して逮捕勾留され起訴された者に対して会社が休職処分をなし、右休職期間満了により雇用関係が終了したとした事件で地位保全の仮処分が申請された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 休職 / 休職の終了・満了 休職 / 事故欠勤休職 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性 |
裁判年月日 | : | 1972年12月13日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和45年 (ヨ) 2403 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 時報695号111頁/タイムズ295号324頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 山口浩一郎・ジュリスト555号142頁 |
判決理由 | : | 〔休職-休職の終了・満了〕 〔休職-事故欠勤休職〕 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕 前示就業規則、休職規程および労働協約の休職に関する規定によれば、事故欠勤休職は、業務外傷病を除く、従業員の自己都合による長期欠勤という事態について、使用者が企業経営上雇用契約を維持しえず、解雇すべき場合(通常解雇相当な場合)に、なお一ケ月の休職期間を限って雇用契約の終了を猶予し、右期間内に休職事由(長期欠勤)が消滅すれば復職させるが、右期間満了までに休職事由が消滅しないときは、当然に雇用契約を終了させる制度であり、このような事故欠勤休職の趣旨、目的や効果からみると、規定上休職期間満了の効果として自然退職とされ、解雇とは異なるものとされているとはいえ、事故欠勤休職が実質上解雇猶予処分の機能をもつことは否定できない。傷病欠勤による休職については休職期間が六ケ年とされ、一年の延長も可能とされているのに対比し、事故欠勤休職は、その休職期間が、解雇予告期間にも対応する、一ケ月というきわめて短期間であり、解雇猶予処分の性格を明瞭に示しているといえる。 そうであれば、この種休職処分に付する時点においても、当該欠勤によって雇用関係を終了させることが妥当と認められる場合、あるいは通常解雇相当な場合であることを要すると解すべきである。さもないと、この種休職処分に付することにより、実質上解雇の制約を免れることになるからである。而して、一般に労働者の自己都合による長期欠勤で、将来の就労の見通しもたたないようなときは、通常解雇を相当とする場合ということができる(現に債務者会社において、過去に事故欠勤休職に付し、退職した事例はいずれも通常解雇相当な事案と認められる。)。 ところで、本件のような刑事事件による逮捕・勾留のための長期欠勤も、労働者個人の行為に起因し、かつ長期欠勤状態の継続という客観的事実からすれば、他の自己都合による長期欠勤と異ならない。 債権者は不当な逮捕・勾留により自己の意に反して長期身柄を拘束されたため就労不能となったものであるから「事故欠勤」にあたらない旨主張するが、かりに逮捕・勾留が不当であったとしても、それによる就労不能について使用者が受忍すべき筋合とは考えられないから、右主張は採用できない。 しかしながら、逮捕・勾留による就労不能については、他の一般の自己都合による長期欠勤と同様に、ただちに通常解雇相当な場合とみることには疑問があるといわなければならない。前示就業規則によれば、有罪判決の確定まで懲戒解雇はなしえないが、それはともかく、有罪判決がなされる以前の段階で、長期勾留による欠勤という客観状態のみに着用して雇用関係を終了させることは、事柄の性質上問題があるからである。その場合に、刑事事件の性質、保釈の可能性等をも検討する必要がある。刑訴法八九条にいう権利保釈の認められない重罪事件等の場合は、格別、本件のように、事件の性質上、将来保釈の可能性はあり、労働者が保釈後就労する意思を明示しているような場合においては、長期勾留という事由のみで通常解雇を相当とするとはいいがたい。 本件のような刑事事件による起訴、長期勾留という事態に対処するため、起訴休職制度を設けている企業も多いが、有罪判決あるまで労務の正常な提供の確保、職場秩序維持の見地から、雇用契約は存続させながら、労働者を就業から排除するというこの制度自体の合理性は一般に肯定することができる(起訴休職の休職期間について一定期間を定め、その期間満了と同時に退職とする規定をおくことは合理性を欠く)。債務者会社のようにかかる起訴休職制度が設けられていない場合において、事故欠勤休職に付し、その効果として有罪判決前に短期間で雇用契約を当然終了させてしまうことは、起訴休職制度が存し、その適用がなされる場合と対比しても不均衡感を免れえない。 なお、本件のような長期勾留による就労不能の事態について、使用者が拱手傍観しなければならないわけではなく、前示就業規則第七七条一項5号、協約第一条6号にいう「その他前各号に準ずるとき」に、具体的には事故欠勤に準ずる事由に該当するものとして休職処分に付することは可能であり、その場合休職期間である「必要な期間」は具体的には保釈までの期間をいい、休職期間中の賃金は事故欠勤に準じ不支給として取扱うことができるというべきである。 以上の考察からすれば、本件のような刑事事件による逮捕・勾留のための長期にわたる就労不能について、形式的に「事故欠勤」に該当するものとしてした債務者の本件休職処分は就業規則の解釈、適用を誤ったものとして無効といわざるをえない。 |