全 情 報

ID番号 03659
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 国鉄職員事件
争点
事案概要  花見で飲酒し上司を殴り傷つけ罰金刑に処せられた国鉄職員が上司から「懲戒免職処分を受けるかもしれないから辞職願を出して処分の軽減をねらうように」と説得され辞職願を提出し諭旨退職とされた国鉄職員が、右発令日の前日辞職願を撤回したとして地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1972年12月21日
裁判所名 函館地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヨ) 89 
裁判結果 一部認容・却下
出典 タイムズ295号344頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕
 「辞職願」と一口に言つても、辞職届の性質に近いものから進退伺いに過ぎないものまで種々あることに鑑みて、当裁判所は、辞職願の撤回は依願退職の発令(辞職願の承認)があるまでいつでも有効になしうるのを原則とし、当該辞職願およびその撤回のなされた経緯に照らして、その撤回によつて相手方(使用者)に不測の損害ないし困惑等を不当に強いることとなるような特段の事情があるときには例外的に信義に反するものとして無効となる場合があると解する。最高裁判所昭和三四年六月二六日第二小法廷判決(民集一三巻六号八四六頁)および同昭和三八年一一月二六日第三小法廷判決(民集一七巻一一号一四二九頁)は、公務員の辞職願の撤回について判示したものであるから、事案を異にする本件に直ちにその法理を適用し得ないけれども、右判決の趣旨も結局のところ、当事者間の法的利益の均衡公平にあると言えるので、公務員以外の者の辞職願の撤回についても同様に解すべきものと思料する。
 本件についてこれをみるに、撤回が遅れたのは、前記認定のとおり債権者がなるべく穏便に解決しようと苦慮したためであること、本件暴行傷害事件は前記認定のとおり懲戒免職事由に該当するほど悪質とは言い難いことならびに本件辞職願提出の経緯等諸般の事情を勘案すると、本件撤回が本件通告後二週間余を経過し、しかも退職予定日の前日になされたという点を考慮しても、未だ本件撤回が信義に反するものとは言い得ない。
 3 したがって、合意解約の申込というべき本件辞職願は、ここに有効に撤回されたものと言える。