ID番号 | : | 03699 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 北九州電報電話局事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 「反安保、ホークミサイル基地設置反対」という政治的主張をかかげてのデモ行進に際して警察官と衝突し公務執行妨害罪で起訴された電々公社の職員が起訴休職処分とされたことにつきその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 日本電信電話公社法32条 |
体系項目 | : | 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性 休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力 |
裁判年月日 | : | 1971年9月21日 |
裁判所名 | : | 福岡地小倉支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (ヨ) 613 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | タイムズ275号253頁/訟務月報17巻10号1585頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕 〔休職-起訴休職-休職制度の効力〕 公社の刑事休職制度の趣旨についてみるに、およそ、公訴を提起された者といえども有罪の判決の宣告を受けるまでは無罪の推定を受けるのが法律上の建前ではあるが、起訴された被告人の大半が有罪となつている我が国の実情にかんがみ、現実には起訴された職員は、起訴状記載の公訴事実、罪名ならびに罰条により特定された犯罪についてある程度客観性を帯びた嫌疑を受けているとの社会的評価を免れないというべきであり、その限りにおいて職場の内外に及ぼす影響を無視することができないものがあるといえる。他方、債務者公社職員は、公共の福祉の増進を目的とする公衆電信電話事業の遂行に従事するものであり(公社法一条参照。)、その職務の性質上法令等に誠実に従い、全力をあげて職務の遂行に専念すべき義務を負つていること(公社法三四条参照。)、罰則の適用に関しては公務に従事すと者とみなされていること(公社法三五条、一八条参照。)に照らし職務遂行上公務員に近い程度の公正、誠実性が要求されているものということができる。したがつて、職員が、起訴により前記のような嫌疑を受けたまま引続き職務を執るときは、場合によつては、職員の職務遂行上の公正、誠実性に対する疑惑を招き、職場における規律ないし秩序の維持に影響するところがあるのみならず、電信電話事業という公共的職務に対する国民の信頼に動揺を与えるおそれがないとはいえない。また、起訴された職員は、刑事訴訟法二八六条により、同法二八四条、二八五条に定める軽微事件を除く外公判期日に出頭する義務を負い、同法六〇条に定める事由があれば勾留されうるのであるから、起訴の態様および裁判の進行状況によつては、同人の職務に専念すべき義務の遂行にも支障を生ずる場合があるといわなければならない。それ故、職員が刑事事件で起訴されたときは、その事件の裁判が未確定の間、当該職員を職務に従事させないことが適当な場合がある。したがつて、債務者公社は、前記就業規則等の各規定を如上の趣旨に照して運用する合理的制約を受けているものというべきである。 これを具体的に検討すると、刑事事件で起訴されるといつても、その内容は様々であり、起訴罪名、法定刑についてみた場合、有罪と認定されれば相当長期の実刑を免れない重罪から単に罰金、科料に処せられるにすぎない軽罪まであるうえ、公訴事実の具体的内容についてみても、当該職員の職務に関連する破廉恥犯から職場外の職務に関連しない形式犯に至るまで多様なものが考えられる。また、起訴された職員の地位、職務内容についても、債務者公社のように約二六万人の職員を擁する大組織においては、その名誉と信用とを象徴するような管理職から単に機械的肉体的労務を提供するにすぎない末端の職員に至るまで種々の階層があることがうかがわれる。したがつて、それらの具体的内容、程度如何によつては起訴による職場秩序の維持、国民の信頼の保持への影響に対して重大な差異を生じることは明らかである。例えば、職場内で職務と関連した破廉恥的犯行を犯したことにより起訴せられた場合、あるいは一般に債務者公社の名誉と信用を象徴するような地位にある者が刑事事件で起訴せられた場合等においては、職場秩序の維持あるいは国民の信頼の保持という面に対する影響を無視することができず、公訴事実未確定の間は休職処分に対する合理性を首肯することは容易である。逆に、末端の機械的肉体的労務を提供するにすぎない職員が、職場外で職務と無関係な形式的犯行を犯したため起訴せられたような場合は、右に対する影響も微細なものというべきであつて、特別の事情のない限り、その者に対する休職処分の合理性を認めることは困難であるといわなければならない。また、起訴の態様についても、身柄拘束の場合と在宅の場合とで労務不提供等による職務専念義務遂行に相違を生ずることは明らかである。すなわち、身柄拘束のまま公判審理が進められておればその間の労務提供不能を理由にその者を休職処分に付することは合理性があるといえるが、反対に、在宅のまま公判審理が進められているような場合には通常右を理由として休職処分に付する必要はほとんどないものといわなければならない。 加えて、休職処分を受けた職員は休職期間中職員たる身分を有しながら職務に従事することができないのは勿論、就業規則九四条四項によりその期間中基本給等、扶養手当および暫定手当の一〇〇分の六〇しか支給されないうえ、刑事裁判で無罪の判決を受けた場合にも支給されなかつた給与の差額を請求することができない等実際上蒙る不利益を無視することができないものであるから、債務者公社は、休職処分発令の当否を判断するにあたつてはこのことも当然考慮すべきものといわなければならない。 以上を要するに、債務者公社はその裁量権を行使するにあたつては、公訴事実の具体的内容、罪質、当該職員の地位、職務内容、起訴の態様等を比較検討し、刑事休職制度の設けられた如上の趣旨にかんがみ、休職処分に付しなければ、職場秩序の維持、国民の信頼の保持、職務専念義務に実質的に支障を生ずるかどうかを基準にして判断すべきであり、右のおそれがないのに休職処分に付することは、裁量権の範囲を逸脱した無効な処分といわなければならない。 |