全 情 報

ID番号 03701
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 一畑電鉄労組事件
争点
事案概要  労働組合の書記が、組合批判グループと組んで執行部批判の分派活動を行ない忠実義務に違反するとして懲戒解雇(第一次解雇)され、さらに人件費の節約等の名目をあげてやむを得ずというかたちで解雇(第二次解雇)され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項9号
民法628条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
裁判年月日 1971年9月23日
裁判所名 松江地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 49 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報652号88頁/タイムズ274号224頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 まず昭和四二年七月四日原告が前記A会の会合に出席したとの点(第五の一の(三)の1の事実)について検討してみるに、《証拠略》を総合すると、原告は同日午後零時半頃、勤務先のB会社の倒産により失職した妻の再就職先を斡施してもらうため労働会館内の県評事務所に旧知のCを訪ね、右倒産会社の従業員数名と共にCと再就職問題について懇談したことが認められるが、《証拠判断略》他に原告が前記A会の会合に出席したとみられる証拠はない。又《証拠略》によれば前掲無記名のビラの文案は私鉄石見支部の書記長Dの筆になるところ、右ビラの内容について原告が関係していたと認めるに足る証拠はない。被告組合は原告が無断で組合員名簿を持ち出し、前掲乙第四、五号証のビラの配布の用に供した旨主張する(第五の一の(三)の3の事実)が、原告が組合員名簿を無断で持ち出したと認めるに足る証拠はなく、かえって《証拠略》によれば右名簿は昭和四二年一月に行われた衆議院選挙に際して被告組合から県下の社会党総合対策本部に提出されており、同年七月当時他の組織においてこれを利用しうる状態におかれていたことが認められる。原告が第一次解雇前に批判グループと意を通じ、「E会」等の活動に関係していたとの点については《証拠略》を総合すると被告組合執行部のたんなる憶測にとどまるものであって、これを認めるに足る証拠はない(もっとも前記認定のとおり原告は昭和四二年一〇月一四日頃批判グループに属するF及びGとHで会食しているが、この事から直ちに原告が批判グループと関係していたものと認めることはできない)。同年一〇月二五日頃の被告組合執行委員会の査問において原告が査問に容易に応答せず、侮辱的態度をとったことはある程度認められるが、右査問が原告の懲戒を目的とするものである以上原告にも自己負罪不強制の特権を認めるべきであるから、査問に対し正直に応答しなかったことをもって被告組合執行部を侮辱したとはいえず、又前記認定の程度では原告の行為が本件就業規則第九二条第二号又は第三号の解雇事由に相当する程度のものであったとは到底認めがたい。
 以上の次第で第一次解雇は本件就業規則第九二条所定の解雇事由を欠いているからその手続上の瑕疵について判断するまでもなく、無効であるといわなければならない。
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 一般に労働組合の書記局などに雇傭されている労働者は私生活においても当該組合の結成された趣旨及び目的と基本的に抵触する行動を慎しむべき忠実義務があり、右労働者の職場外における私的行動といえどもそれが雇主である労働組合の団結を侵害し、または侵害する虞れのある場合は解雇の正当事由に当るものと解するを相当とするから、被告組合の従業員に右のような事由の存するときは本件就業規則第一〇四条第三号、第四号によりこれを解雇することができるものと解せられる。