全 情 報

ID番号 03703
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 京阪自動車事件
争点
事案概要  職歴の詐称を理由とする自動車運転者に対する懲戒諭旨解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1971年10月14日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ヨ) 245 
裁判結果
出典 タイムズ275号348頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 以上申請人が昭和四二年一〇月採用されるに当り提出していた履歴書の職歴には、僅かにA会社(それも勤務期間の誤あり)と昭和四〇年八月以降勤務してきたB会社の記載が真実であるに止まり、その余はすべて虚偽であつて、前記の如く数々の職歴の記載を違脱せしめている状態では、被申請人側において履歴書の提出を求めた意味は没却されたに等しく、本件経歴詐称を軽視することはできない。
 真実を表明したならば被申請人会社に採用してもらえないかも知れないと危惧していたことは申請人の自認するところである。〈証拠〉によれば、会社は申請人を採用して約六ケ月後の昭和四三年三月下旬頃に至つて、昭和三二年八月二日付の申請人の履歴書が会社にあることに気付き、種々調査の末、申請人が昭和三二年九月に会社に採用されたが同年一一月の三ケ月目には採用取消となつていることの外前記のとおり数々の経歴詐称の事実を発見し、昭和四三年六月には賞罰規程による賞罰委員会の開催を要請し懲戒手続を践まんとしたが、諸種の事情により延引したこと、申請人の先の入社は当時の人事部長の紹介を得てのことであるのに採用取消となつたのは当時にも好ましくない事情(右証人らによれば経歴詐称、申請人本人の供述によれば試雇三ケ月の期間中に二回程運転事故があつたとのこと)があつたこと、会社としては懲戒処分として解雇相当の意向であつたが、委員会審議の結果は諭旨解雇(賞罰規程第二四条の懲戒処分のうち懲戒解雇より軽度のもので、期間を定めその期間内に退職を申出た場合は任意退職の扱いをなし、申出ないときは懲戒解雇とするが退職金を支給する)としたことが認められ、これらの事実よりすれば、本件各経歴詐称の事実がなかつたとすれば雇用されなかつたであろうことが推測し得る。
 一般に雇用契約において労働が人的信頼関係の基礎の上に評価されることはいう迄もない。被申請人主張の如く多くの物的人的施設を擁し、しかも一車毎に企業目的を担つて多数乗客を輸送する極めて公共性の強い企業に在つては、技術的能力の高さと共に企業の秩序維持のため人的信頼を特に強調さるべきは当然であり、前記のとおりの本件経歴詐称は右諭旨解雇とするに相当と解され、懲戒権の濫用であるということはできない。