ID番号 | : | 03720 |
事件名 | : | 懲戒処分停止申請事件/賃金仮払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 健和会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 金融機関の融資と債券(協力債)発行により資金調達をしている財団法人が、病院建設のための協力債募集計画を推進中、手形を不渡りとしたことを契機として、右協力債債権者らが債権確保を目的として結成した「協力債の会」の集会において、右財団法人の部長職にある者が、職員に対し、募集計画への協力が強制されている等と発言したことを理由としてなされた、右部長職にある者に対する懲戒休職処分の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 |
裁判年月日 | : | 1986年2月20日 |
裁判所名 | : | 福岡地小倉支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和60年 (ヨ) 364 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働判例476号78頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕 ところで、申請人の右発言は、職場外における行為であるので問題となるが「労働者は、使用者と労働契約を締結して雇用されることにより、使用者に対し、労務提供の義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、その労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができるものであるところ、右企業秩序は、労働者の職場外で為された職務遂行に関係のない行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものは規制の対象となり、これを理由に労働者に対して懲戒を課することも許される」と解するのが相当である。 したがって、就業規則(疎乙第一号証)四四条、四五条四号により、申請人は、企業の円滑な運営のために、職場の内外を問わず、誠実にその職務に従事して責任を遂行し、かりにも企業に対する信用・名誉等を毀損する行為をしてはならない義務を負うものといわなければならない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕 1 懲戒規定に数段階の懲戒方法の定めがある場合は、懲戒の種類とともに情状による段階を示したものであり、その選択は使用者の裁量にあることはいうまでもないが、恣意的な選択を許すものではなく、懲戒事由と情状とが客観的相当性をもったものでなければならないと解すべきである。 2 これを本件についてみるに、申請人の本件発言は、前示のとおり被申請人の社会的信用を害するおそれがあった行為として非難を免れ得ないが、発言の場所は、「協力債の会」という限定された場で為されたもので、表現の方法も、文書ではなく短時間の発言にとどまり、新聞報道を予期した行動とも言えず、ことさら社会一般に被申請人の悪印象を与え、社会的信用を失墜させようとの意図を有していたとは認め難く、結果として、前記認定のとおりA紙に結成総会の記事が掲載された後、約三〇名の債権者から協力債の中途解約の申し出があったことは、被申請人自身が不渡処分を受けたことによる影響も否定できず、すべて申請人の責に帰すると考えることはできないし、また、被申請人自身も申請人の反省を認めて前件の地位保全等仮処分申請事件を取り下げたように、その後申請人は自己の行動の軽率さに気付き反省の態度が十分認められることなどの諸般の情状を考慮すると、更に軽度の処分をもってしても懲戒の目的は十分に達しうると認められ、申請人の生活に重大な支障を及ぼし、解雇と同じ影響を与えかねない本件休職処分は、著しく苛酷に過ぎ、裁量の限界を逸脱して処分の選択を誤った違法により無効であると言わざるを得ない。 |