ID番号 | : | 03753 |
事件名 | : | 雇用関係確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 洋書センター事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 仮店舗への移転に反対して社長を軟禁したうえ暴行を加え傷害を負わせたこと等を理由とする従業員の懲戒解雇の効力が争われた事例(解雇有効)。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言 |
裁判年月日 | : | 1986年5月29日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和58年 (ネ) 1140 |
裁判結果 | : | 上告 |
出典 | : | 労働民例集37巻2・3合併号257頁/労働判例489号89頁/労経速報1285号3頁 |
審級関係 | : | 一審/東京地/昭58. 4.26/昭和58年(ワ)10707号 |
評釈論文 | : | 萱谷一郎・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕208~209頁/諏訪康雄・ジュリスト904号120~123頁1988年3月15日/前田政宏・労働判例百選<第6版>〔別冊ジュリスト134〕190~191頁1995年5月 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕 1 使用者がその雇用する従業員(以下「労働者」ともいう。)に対して行う懲戒解雇は、使用者が、企業秩序を維持確保するために、右秩序に違反した労働者に対し制裁として課する解雇である。労働者は、労働契約に基づき、企業秩序の維持確保を図るべき一般的義務を負担するというべきではあるが、懲戒解雇のこのような制裁としての本質にかんがみると、使用者が労働者を懲戒解雇するためには、労働者のいかなる企業秩序違反の行為に対し、懲戒解雇を課し得るのか、その懲戒解雇事由が法律あるいは就業規則または使用者と労働者との間の合意によって明定されねばならないものというべく、使用者は、労働者を雇用さえすれば、右の定めがなくとも、その固有の権利として、当然に、労働者に対する懲戒解雇の権能を有するとする見解は相当でない。したがって、使用者と労働者との間に、懲戒解雇事由につき法律あるいは就業規則・労働協約等による具体的定めが存しなければ、使用者は、たとえ労働者に企業秩序違反の行為があったとしても、その労働者を懲戒解雇することはできないというべきである。 そこで、私企業において、その就業規則・労働協約等に懲戒解雇事由の定めを欠き、あるいはそもそも就業規則等も作成されていない場合においては、使用者が企業秩序違反の行為をした被用者に対し、懲戒解雇と称する意思表示をしても、叙上の懲戒解雇の効力は生ずるに由なきものであるが、しかし、その場合にも、使用者が叙上の懲戒解雇に固執せず、かつ、労働者の地位を不当に不安定にすることのない限り、使用者のした右懲戒解雇と称する意思表示は、懲戒解雇なる呼称の下にされた普通解雇の意思表示と解する余地がある(その普通解雇は、大凡、労基法二〇条一項ただし書後段所定の「労働者の責に帰すべき事由」に基づく即時解雇の趣旨と考えられる)。 ところで、叙上の認定説示によれば、組合の構成員は、パートタイマーの控訴人X1を除けば、本件解雇をされた控訴人X2及び同X3の両名のみであり、組合の意思決定は主として右両名によって行われ、組合の利害と右両名の利害とは密接不可分であったところ、右控訴人両名は、本件解雇理由たる、前叙の両名共謀によるA社長に対しての長時間に及ぶ軟禁、暴行傷害を実行した当の本人であるから、その後における組合闘争としての、右控訴人両名らによる旧社屋の不法占拠などの前叙の事態をも併せ考えると、もはや、被控訴会社と組合及び右控訴人両名との間には、本件解雇に際して、本件事前協議約款に基づく協議を行うべき信頼関係は全く欠如しており、前叙の「労働者の責に帰すべき事由」に基づく本件解雇については、組合及び当人の同意を得ることは勿論、その協議をすること自体、到底期待し難い状況にあった、といわなければならないから、かかる特別の事情の下においては、被控訴会社が本件事前協議約款に定められた手続を履践することなく、かつ、組合及び当人の同意を得ずに、控訴人X2及び同X3を即時解雇したからといって、それにより本件解雇を無効とすることはできない。 |