全 情 報

ID番号 03754
事件名 講習手数料請求事件
いわゆる事件名 サロン・ド・リリー事件
争点
事案概要  美容室を経営する会社に職種を美容等とする準社員として就職した従業員が右会社との間で締結した、会社の美容指導を受けたにもかかわらず会社の意向に反して退職したときは入社時にさかのぼって一箇月につき金四万円の講習手数料を支払う旨の契約に基づいて、右会社が退職者に対し講習手数料を請求した事例。
参照法条 労働基準法16条
体系項目 労働契約(民事) / 賠償予定
裁判年月日 1986年5月30日
裁判所名 浦和地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ワ) 502 
裁判結果 確定
出典 労働民例集37巻2・3合併号298頁/時報1238号150頁/労経速報1281号27頁/労働判例489号85頁
審級関係
評釈論文 遠藤昇三・労働判例百選<第6版>〔別冊ジュリスト134〕28~29頁1995年5月
判決理由 〔労働契約-賠償予定〕
 ところで、労働基準法第一六条が使用者に対し、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をすることを禁じている趣旨は、右のような契約を許容するとすれば労働者は、違約金又は賠償予定額を支払わされることを虞れ、その自由意思に反して労働関係を継続することを強制されることになりかねないので、右のような契約を禁じこのような事態が生ずることを予め防止するところにあると解されるところ、当該契約がその規定上右違約金又は損害賠償の予定を定めていることが、一見して必ずしも明白でないような場合にあっても、右立法趣旨に実質的に違反するものと認められる場合においては、右契約は同条により無効となるものと解される。そして、当該契約が同条に違反するか否かを判断するにあたっては、当該契約の内容及びその実情、使用者の意図、右契約が労働者の心理に及ぼす影響、基本となる労働契約の内容及びこれとの関連性などの観点から総合的に検討する必要がある。
 (中略)
 労働契約における被告の給与額は、月額八万九〇〇〇円ないし九万円とされているのに対し、本件契約にもとづく講習手数料は月額四万円とされ、前者に対する後者の比率がかなり高いうえ、当然のことながら、従業員が講習手数料を支払う場合には、原告会社に在職する期間が長い者ほど支払うべき講習手数料額が累積する関係にあることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
 以上に認定した本件契約の目的、内容、従業員に及ぼす効果、指導の実態、労働契約との関係等の事実関係に照らすと、仮令原告が主張するようにいわゆる一人前の美容師を養成するために多くの時間や費用を要するとしても、本件契約における従業員に対する指導の実態は、いわゆる一般の新入社員教育とさしたる逕庭はなく、右のような負担は、使用者として当然なすべき性質のものであるから、労働契約と離れて本件のような契約をなす合理性は認め難く、しかも、本件契約が講習手数料の支払義務を従業員に課することにより、その自由意思を拘束して退職の自由を奪う性格を有することが明らかであるから、結局、本件契約は、労働基準法第一六条に違反する無効なものであるという他はない。