全 情 報

ID番号 03785
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 ヒノヤタクシー事件
争点
事案概要  物損事故をおこしたタクシー運転手に対し、「技能が著しく劣り上達の見込なく又は勤務成績が著しく悪く従業員として不適当と認めたとき」に該当するとして解雇した事案につき、右解雇を無効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1986年10月17日
裁判所名 盛岡地
裁判形式 決定
事件番号 昭和61年 (ヨ) 148 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例488号95頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 本件では、本件四件の事故のうち前記(二)(1)、(2)の各事故は、その内容自体、かなり軽微なものであったこと、本件四件の事故全部を通じ、いずれも人損が生じた旨の疎明はなされておらず、債権者が右各事故により何らかの刑事処分又は行政処分を受けた旨の疎明もなされてはいないこと、前記1、2(二)のとおり債権者が約四年三か月にわたる債務者のもとでの稼働期間中四回の事故を惹起したのはたしかにまことに芳しくないことではあるが、その程度自体いまだ極端に頻繁にわたるとまでは評しがたいこと、(二)(1)ないし(3)の三件の事故については、債務者から債権者が何らかの処分を受けたり始末書の提出を求められたりするなどのことがあった旨の疎明はなく、なお、(二)(4)の事故については、債務者は、債権者の賞罰委員会への出頭や上司への報告を求められたが、その際、債権者は、事故を惹起したことにつき陳謝し、自己の過失についても反省の意を表わすとともに、今後安全確認を十分行っていきたい旨の態度を表明していたこと等の事情も認められるのであって、結局、以上の点を総合勘案すると、現段階において債権者の技能が著しく劣るとまで断じうるかにはなお疑問をいれる余地もあり、少なくとも、右各事故を根拠として、運転態度を含めた債権者の技能には改善の見込がなく、もはや将来にわたって債務者の企業目的の達成に寄与しうるような質、量における労働義務の遂行を債権者からは期待しえないとまで評価することには、相当性を失するところがあるといわざるをえない。
 以上、要するに、前記のとおり、就業規則二八条四号該当性の判断には、相当程度債務者の裁量に委ねられるところがあることを考慮してもなお、本件はいまだ同号所定の場合にはあたらないと解するのが相当である。