ID番号 | : | 03791 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | ダウ・ケミカル日本事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | もと会社の一部門であり、その後、同一資本系列の別会社に譲渡された工場(衣浦工場)への「転勤命令」を拒否したことを理由に懲戒解雇された者が、地位保全の仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 民法625条1項 労働基準法2章 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 出向と配転の区別 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 |
裁判年月日 | : | 1986年11月14日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和61年 (ヨ) 2246 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 労働判例485号19頁/労経速報1289号23頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-出向と配転の区別〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 しかしながら、衣浦工場は被申請人とは別会社であるA会社に属する工場であるばかりか、両者はその営業目的を異にし、A会社は、その従業員をもって組織されたA会社労働組合との間に独自の労働協約を締結し(衣浦工場の従業員がこの協約の適用を受けないとの疎明はない)、また就業規則についても、衣浦工場については被申請人の就業規則が準用されてはいるものの、独自の就業規則を定めているというのである。 右の事実によれば、賃金・給与体系において被申請人の処遇体系を適用し、社会保険においても被申請人の従業員として取扱われ、従業員の教育訓練、人事異動計画、人事考課、昇進昇格、退職規程等についても被申請人の一部門として処理・処遇されているというのは、衣浦工場が従前被申請人の工場であったという経緯、被申請人とA会社とは同一資本系列に属する子会社であることなどによるものであって、衣浦工場の従業員に対する人事権が一部依然として被申請人に残存されているということはいえるにしても、このことから衣浦工場がA会社に属する工場であることを否定することにはならないというべきである。そして、前記認当事実によると、衣浦工場に属する従業員に対する賃金支払義務者はA会社が負担し、同従業員に対する日常の個別的・具体的な労務指揮はA会社に属することを推認することができる。 してみると、本件配転命令は、被申請人から別会社であるA会社に勤務変更を命じるものであって、実質的には申請人が主張する如く出向命令であるといわなければならない。 ところで、使用者が従業員に対して出向を命ずるには当該従業員の承諾その他これを法律上正当付ける特段の根拠が必要であると解すべきところ、被申請人の就業規則である疎乙第三号証には出向に関しては何らの定めもしておらず、また、申請人の陳述書である疎甲第四号証によれば、被申請人の従業員で衣浦工場に勤務変更となった者はいるが、これは採用に際して同工場で勤務することが条件となっていたり、あるいは本人の同意を得た上でのことであって、被申請人の女子従業員で衣浦工場に勤務変更となった先例はなく、申請人が初めてであること、本件配転命令書である疎乙第三二号証によると、本件配転命令の内容は「本日付をもって、衣浦工場・管理部門(経理・総務)において、秘書として勤務することを命じます。遅くとも、本日二四日迄に上記勤務場所に赴任することを命じます。」と記載されているのみで、その他の労働条件については何らの記載がなく、また、本件疎明資料によれば、被申請人から申請人に対し、これら労働条件について書面または口頭によって何らの説明もされていないこと、以上の事実を一応認めることができ、この認定を左右するに足りる疎明はない。そして、本件全疎明資料によっても、本件配転命令を他に法律上根拠付ける事実を見出すこともできない。 してみると、本件配転命令はその根拠なくしてなされたものである点において、また、その権利を濫用してなされたものである点においても無効であるというべきであり、これを前提としてなされた本件懲戒解雇は無効というべきである。 したがって、申請人は被申請人の従業員としての地位を依然として有しているものである。 |