全 情 報

ID番号 03792
事件名 従業員地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 広沢自動車学校事件
争点
事案概要  教習車への録音機設置に対して抗議したことに対し、「社長命令が聞けないのであれば辞めて帰れ」といわれ、午後の教習業務に従事せず帰った教習所指導員に対する懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1986年11月17日
裁判所名 徳島地
裁判形式 決定
事件番号 昭和61年 (ヨ) 167 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例488号46頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 そこで、これを対象としてされた本件懲戒解雇の効力について検討するに、教習車に録音機を積んで録音テープに技能教習の様子を録音することは、録音される者がこれを聞いて教習のやり方を改善するための方法となりうることはそのとおりであろうが、録音される者が自発的にこれをするのではなく、学校管理者が指導員の教習を録音して聞くというのは、教習指導員が教習態度を監視されているかのように感じて心理的圧迫を受けるのは無理からぬところで、録音される指導員及び教習生の自由な同意なしにこれをする場合には、教習生も含め録音される側の人格権の侵害にもなりうることは否定できない。そうである以上、本件において被申請人が指導員の教習の様子を録音テープに録音する必要を感じてこれを実施したいと考えたならば、申請人らを含む教習指導員らに対し、あらかじめその事情を話し、これに対する意見を十分に聞き、反対者の理由に対する意見を述べて説得し、たとえば教習生のプライバシーの問題もあるとすれば、その同意を得るかどうか等実施の方法などにつき十分協議してその納得を得るよう努力するべきであったにもかかわらず、被申請人は八月二一日に既に録音機及び録音テープを購入し、翌二二日に教習の様子を録音する旨一方的に指導員らに伝え、反対者の反対の理由を十分に聞き、これに対する意見を述べて説得するということは全くなく、社長命令の名のもとに強行しようとしたのであるから、そのやり方はいささか強引であったといわざるをえない。そしてこれに申請人らを含む指導員六名が反発し、録音機を積むなら教習車に乗れないとの態度をとり、その日の午後の教習を放棄して帰ってしまったのは、そのために教習を受けられなくなった教習生のことを考えると、やや乱暴で軽率であったとはいえなくもないが、会社側の一方的な強行姿勢、とくに録音機を積むという会社の指示に従えない者は帰れと言われたことに対し、申請人らがこれに反発して帰宅してしまったのもやむを得ない面があり、直ちに責めることはできないというべきである。
 したがって、右の点を斟酌すると、申請人らの前記行為は就業規則五九条1項各号の懲戒解雇事由のいずれにも該当しないと解するのが相当である(ちなみに、1号については情状が特に悪質とは言えず、2号については正当な理由がないとはいえない。また、5号、11号の「故意に」とあるのはこれを目的として意図的に行われたことを要すると考えられるところ、本件ではこれを意図的に行ったものとはいえない。)。また、右規定による懲戒解雇事由が例示的に列挙したものにすぎないか、若しくは申請人らの右行為が仮に5号、11号には該当するものと解したとしても、右に指摘した点を考慮すると、本件懲戒解雇の意思表示は解雇権の濫用というべきである。よって、本件解雇は無効であり、申請人両名はいまなお被申請人の従業員の地位にあるということができる。