全 情 報

ID番号 03809
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 インタープレス事件
争点
事案概要  事業縮少を理由とする整理解雇につき、整理解雇が有効とされるための要件を充たしておらず権利濫用として無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1986年12月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和61年 (ヨ) 2320 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1280号20頁/労働判例489号26頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 以上のような記載があるのであるが、右記載内容を裏付ける客観的資料は提出されておらず、右各陳述書のみをもって右記載内容が疏明されたものとはいい難く、仮にこれを認めるとしても、右記載内容は、債務者が経営不振に陥った経緯、その経営内容、本件整理解雇による経営規模の縮小により削減される支出等につき、その概略を示すに留まり、倒産の切迫性の程度、人員削減の効果等を具体的に把握するには未だ十分なものでなく、到底本件整理解雇の必要性を認めるには至らず、他にこれを一応認めるに足る疏明はない。
 (中略)
 そこで、本件について見るに、先ず、債務者は、本件整理解雇に先立ち、昭和六一年八月一八日の朝礼で希望退職者募集の発表を行ってはいるが、それきり、これに応ずる者が一名も出てこないのに何ら対策を考慮するでもないまま、一〇日程しか立たないうちに本件整理解雇に及んでいるのであって、そこには希望退職の実現を図る積極的な努力の形跡を窺うことができない。しかも、債務者は、右の他には、一時帰休や賃金切下等の解雇回避措置といえる行為を全く行っていないばかりか、かえって、本件疏明資料によれば、債務者は、昭和六一年度夏期一時金について、組合からの基本給、職務手当及び家族手当の合計月額の三〇〇パーセントの支払要求に対し、昭和六一年七月二五日、基本給及び職務手当の合計月額の一一〇パーセントの支払を回答をしていたが、その六日後の同月三一日には、突然同合計月額の三〇〇パーセントの支払を回答し、右一時金を一〇月末までの分割払にすることを決めていることが一応認められるのであって、債務者が本件整理解雇を回避するために信義則上相当と認められる努力を払ったものとは到底いい難い。
 事前の協議、説明については、債務者は、朝礼や団体交渉の席等で、再三にわたり、債務者が経営危機の状況にあり、人員削減の可能性もあることを説明してきたと主張する。しかしながら、債務者において人員削減の必要が具体化したとする前記「A事典」の売上計画第一期終了時である昭和六一年八月八日以降は、債務者は、前記のとおり同月一八日の朝礼で希望退職者の募集を発表したのみで、以後、債権者らにも組合にも、何らこれに関する説明を行っていないばかりか、債権者X1及び同X2の右募集に関する問い合わせがあったのに、極めて形式的な理由から、これにも応じていない。更に、本件整理解雇についての協議、説明に至っては、経過からしてその暇が得られないという訳ではないのに、全くなされておらず、この点についても、やはり相当な努力が払われたものとはいい難い。
 (中略)
 右の各事実を総合すれば、債務者の主張する前記選定基準は名目的なものに過ぎず、債務者は、組合の組合員であることを理由に債権者らを本件整理解雇の対象者として選定したものと推認することができる。
 4 以上のとおり、本件整理解雇は、整理の必要性についての疏明がなく、解雇回避措置及び事前の協議、説明に相当の努力を払っていない信義則違反があり、対象者選定の合理性も欠くものであって、解雇権の濫用として無効といわざるを得ない。