ID番号 | : | 03819 |
事件名 | : | 懲戒処分無効確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本航空事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社が、定期便の機材故障のため運行計画および客室乗務員のスケジュールを変更せざるを得ないとして、休養時間中の客室乗務員にその旨伝え、出頭するように指示したところ、勤務変更は勤務協定違反であり、組合の了解なしに乗務できないとして、この指示を拒否し業務命令違反を理由として減給処分を受けた右乗務員が右処分の効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 |
裁判年月日 | : | 1989年2月27日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和59年 (ネ) 2549 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集40巻1号188頁/労働判例541号84頁/労経速報1353号6頁 |
審級関係 | : | 一審/01238/東京地/昭59. 9.20/昭和55年(ワ)3350号 |
評釈論文 | : | 山崎隆・経営法曹98号52~56頁1991年11月/新谷眞人・季刊労働法152号160~161頁1989年7月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕 客室乗務員の勤務時間、休養、休日等の勤務条件については、控訴人の営む定期航空運送事業における客室乗務員の勤務の特殊性にかんがみ、地上職員のように固定的、一律にこれを規定するのは適当でないため、規程及び本件協定、本件覚書により、勤務割指定、変更という方法により控訴人がこれを定めうることにしたもの(勤務割制度)と解せられる。定期航空運送事業は、運輸大臣の免許を得たもののみが営みうる独占的事業であって利用者の選択の余地が少ない上、予め定められた運航時刻(運航ダイヤ)によって運航されるべきもので、右運送業務の遅滞が公共の利便に与える影響は極めて大きいところ、右運送業務は、天候の悪化、災害の発生、航空機材の故障等による延着、欠航等に強く影響を受け、その遂行のためにはこれに緊急に対応する必要があり、ひいては客室乗務員の勤務もこれに応じざるをえないが、勤務割の変更については、職員の技能、経験、職員間の公平、勤務条件についての労使間の合意、変更前の勤務についての補充要員の有無等多様、複雑、困難な諸要素を考慮して緊急に対処する必要があるから、客室乗務員の勤務割の変更は、控訴人の裁量判断に委ねるのが相当であって、右のように控訴人が勤務割を定めうるのみならず、これを変更しうる権利をも有するものと解するについて十分根拠のあるものであり、これを違法とすべき事情は存しない。このような、右の勤務割制度の趣旨からすれば、控訴人は、労働基準法等の法令、就業規則、規程及び本件協約、本件覚書等の制約に反しない限り、客室乗務員に対し、勤務割を指定しうる権利を有するのはもちろん、勤務時間の延長、休養時間の短縮等にわたることがあっても、一旦指定した勤務割を変更しうる権利をも有するのであり、このことは、勤務割変更をするのが勤務日当日であるか否かによって異なるものでないと解するのが相当である。 もっとも、勤務割変更指示は、勤務時間の延長、休養時間の短縮等を招き客室乗務員の私生活に影響を与えることが多いのであるから、控訴人は、勤務割変更指示に当たっては、変更の事由、その必要性、変更権行使の時期、変更される者への影響の程度、後記のスタンドバイ制度が設けられていること等諸般の事情を考慮して慎重にこれを行うべきであり、控訴人がこのような考慮を怠り、その有する権利の行使がその範囲を超え、濫用にわたる場合には違法となるというべきである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 本件各処分の内容は、前示一のとおりであり、被控訴人が正当の理由なく本件勤務割変更指示に従わず、就労を拒否したことを理由とするものである。 しかしながら、前示1の経緯によれば、被控訴人が大阪支店の航務課の課員及びAに述べたことは、本件勤務割変更について客乗組合の了解を得ることを求め、組合の了解があれば従うというものであり、それに対する控訴人側の対応も、これを拒否することなく、同組合と折衝することとし、更に組合側の対案をも検討することとしていたのであって、被控訴人としては、会社と客乗組合とが話し合い、その結果を伝えてくれることを待っていたに過ぎないのであり、被控訴人が結局一五四便に乗務しなかったのは、Bグループが乗務を了承したことによるものであり、これをもって就労拒否ないし乗務拒否とするのは相当ではない。もっとも、被控訴人が客乗組合の了解を得ることを求めたことは、本件のような急迫した事態の下ではいささか硬直した対応であるとの非難は免れないが、前示2の経緯に照らせば、被控訴人が本件につき客乗組合の了解を得るべきであると判断したことも、それなりに無理からぬところがあり、これをもって、就労拒否ないし乗務拒否とはたやすく評価し得ないし、被控訴人の国内線パーサーとしての判断、指導、統率、規律、責任感等に不十分な面があるともいえない。 したがって、本件各処分は、いずれもその前提を欠くもので違法無効である。 |