ID番号 | : | 03911 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 西村書店事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 新潟市に住む高齢の両親の扶養ができるということで「編集部員、新潟本社勤務」との求人広告をみて新潟市に本社がある出版社に応募し、採用の際もその旨説明して採用された労働者が、一年後東京本社勤務の配転を命ぜられ、その効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 |
裁判年月日 | : | 1988年1月11日 |
裁判所名 | : | 新潟地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和62年 (ヨ) 261 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | 時報1276号137頁/労働判例519号103頁/労経速報1331号21頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 西村健一郎・法学セミナー34巻3号129頁1989年3月 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 (一) 債権者は約五年間勤務した旧勤務先を退職して債務者の従業員となったのであるが、旧勤務先を解雇されたとか、それに準ずるような形で事実上退職を余儀なくされた等の事情は全くないのに、収入の大幅な減少を甘受してあえて債務者に勤務することとしたのであるから、債権者にはそれに見合う大きなメリットが存在した筈である。このメリットとして考えられるのは、債権者の主張するとおり「従来通り編集業務に携わりながら新潟において勤務できること」以外にない。そして、債権者は採用面接の際、旧勤務先における担当業務と収入を告げ、応募の動機として高齢の両親を世話するため新潟に帰りたい旨を述べたのであるから、債務者(A社長)もかかる事情を理解した筈である。そうすると、債権者と債務者は、本件労働契約締結の際、債権者の勤務場所を債務者本店に限定する旨の黙示の合意(申請の理由3(一))をなしたものと推認することができる。 (中略) (四)《証拠略》によれば、債務者の従業員の中には、債務者と労働契約を締結した際、転勤が有り得る旨を告げられたと認めている者が相当数おり、現に転勤の実例もいくつか存在する事実が一応認められる。しかし、《証拠略》によれば、転勤が有り得る旨は告げられなかったと主張し、現に転勤経験のない者も多数存在する事実、転勤が有り得ると告げられたことを認め、また転勤に応じた者についても、うち一名は本店で事務を担当していた従業員が郷里である秋田へ転勤したものであり、その余はすべて営業担当従業員であって、編集担当従業員は皆無である事実(債権者は、債務者に勤務を開始した昭和六〇年一一月五日から昭和六二年六月一九日まで、一貫して編集業務に従事してきた。)が一応認められるから、右に述べた事情は前記推認を妨げるものではない。 (五)《証拠略》(債務者が昭和五九年九月一三日に職業安定所に提出した求人票)には「転勤あります。」と記載されている。しかしこれは本件労働契約締結前のものであり、債権者に示されたわけでもないから、前記推認を妨げるものとはいえない。 (六) その他、前記推認を妨げるべき疎明資料は存在しない。要するに、債務者なりA社長なりが債権者を雇用する時点において内心でどのようなつもりでいたにせよ、問題は契約締結時の客観的事情によって法律上どのような合意が成立したと見ることが出来るかということであって、本件記録に現れた事情から判断すれば前記推認に落ち着くべきものと考えられるのである。 3 以上の次第で、本件配転命令は申請の理由3(一)の合意に反し、無効である。 |