全 情 報

ID番号 03920
事件名 不当利得金返還請求事件
いわゆる事件名 長崎生コンクリート事件
争点
事案概要  使用者の違法な就労拒否によって就労を免れた労働者が、他で職に就いて収入を得た場合における中間収入の控除が問題となった事例。
参照法条 民法536条2項但書
労働基準法26条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
裁判年月日 1988年2月12日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 225 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働民例集39巻1号1頁/タイムズ681号151頁/労働判例513号34頁/労経速報1319号8頁
審級関係 控訴審/04712/福岡高/平 1. 1.30/昭和63年(ネ)250号
評釈論文 山口定男・救済命令取消判決の解説・研究373~376頁1989年12月/山田省三・季刊労働法149号145~150頁1988年10月/野間賢・季刊労働法148号178~179頁1988年7月
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-バックペイと中間収入の控除〕
 民法五三六条二項によると、使用者の違法な就労拒否によって就労できなかった労働者は、もとより、反対給付(賃金全額)の請求権を失うものではないが、同項但書には、自己の債務(就労)を免れたことによって利益を得たときにはこれを使用者に償還しなければならないと定められている。そして、ここにいう利益とは、就労を免れたことによって支出を免れた費用などを第一とするが、必ずしもこれに限られず、就労を免れた間、他の労務に服して得た収入も、免れた労務と他で服した労務との間にその性質及び内容において重大な差異がないなど、就労を免れたことと収入との間に相当因果関係があると判断される限り、これに当たると解すべきである。けだし、その収入は、就労を免れたこと自体によって直接生じたものではなく、例えば他の者との間の別個の労働契約に基づくものであるとはいえ、労働者が本来の使用者に対する労務に服し、そのために費消すべきであった労働力を他に転用した結果、その対価として取得したものであり、かつ、このように、労働者が就労できなかった期間中他に就業して収入を得ることは通常有りうることであると、一応いうことができるからである。
 (中略)
 労基法二六条は、民法上の利益償還請求権の存在をも考え合わせて、実質的にこれを控除した残額を使用者に支払わせることによって、通常の場合のこの関係を画一的に清算、解決しようとする趣旨をも併せ含むものと解することができる。
 そして、右の場合との均衡を考えるならば、民法五三六条二項によって、労働者が賃金全額の請求権を失わない場合にも、使用者からする利益償還請求は通常は、平均賃金の四割の限度でこれを認めれば足りると解するのが相当である。言い換えれば、同項但書の労働関係における適用に当たっては、労働者が、就労を拒否されている期間内に、提供を免れた労働力を自らの意思で他に転用して得た収入は、通常は、最大限平均賃金の四割の限度で、本来の就労を免れたこととの間の法的な意味での因果関係の相当性を認めれば足りるということになろう。
 (中略)
 以上要約したような諸事情及び二項で認定したその他の事情並びに三項で判示したところを総合して考えると、被告は、原告に対する就労を免れた期間内に他で働いて前記収入四六二万三〇二四円を得ているが、原告に対する就労を免れたことによってこれを得たといえる、すなわち、その間に相当因果関係が認められるのは、その内の三分の一にとどまるとするのが相当である。そして、前記収入のうち残りの部分については、本件の事情のもとでは、被告がこれを得たのは、原告に対する就労を免れたことによるとは必ずしもいい難く、その間に因果関係の相当性を認めるに足りないとするほかはない。