全 情 報

ID番号 03930
事件名 損害賠償事件
いわゆる事件名 国鉄釜石駅事件
争点
事案概要  貨車の解体、エアホースの切り離しの作業中に負傷した労働者が国鉄に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
労働基準法2章
労働基準法8章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 退職後の地位
裁判年月日 1988年2月25日
裁判所名 盛岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ワ) 45 
裁判結果 棄却
出典 労働判例523号76頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-退職後の地位〕
 一般に、本件作業の如き構内作業が本質的に一定の危険を伴うものであることは当然のことであるから、旧国鉄は、右危険が可能な限り軽減されるように物的・人的施策を講ずるべきであるとともに、日常の安全教育等を徹底するなどして、その職員が労働災害に遭遇することがないようにするべき一般的な安全確保の義務を負っているものというべきことは当然であるが、当該駅施設の立地条件等の制約により、物的に危険を回避することに一定の限界がある場合には、その限界内で物理的に危険を回避することができるだけの物的条件を満たすべきであり、このような物的な対策のみによっては危険回避にとって不十分な点については、専ら人的な配置の適性及び安全教育及び指導の徹底等を尽くせば足りると解するべきところ、前記認定のとおり、本件標識は、建築限界に定める基準を満たす位置に設置されていたものであり、構内係職員は本件標識の設置位置を認識したうえで当該作業にあたるもので、前記安全作業標準等にいうその作業における安全な姿勢の確保を守っている限り、本件事故のような接触事故を惹起する虞のないものと認められること等の事情を考慮すると、本件標識の設置自体について旧国鉄に過失があったと認めることはできない。
 そして、前記認定のとおり、亡Aに対しては、構内作業の危険性及び安全性についての教育及び指導が十分になされていたのであって、この点についても旧国鉄に過失があったとは言えないばかりか、却って、(証拠略)によれば、亡Aは、その指導期間中において、走行中の車両を移動してはならないこと、走行中の車両に添乗する場合には両手で取手を握って体を引き寄せる姿勢を確保し、前方を注視すべきであること等を厳しく指導されていたのにも拘らず、右指導事項をいずれも厳守しないで本件作業にあたった結果、本件事故を惹起するに至ったものと言うべきである。
 なお、前記各証人の証言によれば、本件事故の後、「びっくり棒」なる設備を設けることによって、仮に車両添乗職員が前方を注視していない場合でも標識の設置位置が接近していることを認識できるような対策が講じられたことが認められるが、当該職員が前述のような構内作業における安全指導を正しく守っていれば本件のような事故の発生を防止することができること前述のとおりであって、このような設備が事故の発生防止のために不可欠のものであるということができないから、本件事故当時この「びっくり棒」の設置をしていなかったという事実があるからと言って、被告の責任に消長をきたすものではない。