全 情 報

ID番号 03933
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 相互交通事件
争点
事案概要  勤務中に人身死亡事故を引きおこしたタクシー運転手に対する解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法20条
労働基準法26条
民法536条2項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
休職 / 休職期間中の賃金(休職と賃金)
裁判年月日 1988年2月29日
裁判所名 函館地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ヨ) 90 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例518号70頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休職-休職期間中の賃金(休職と賃金)〕
 本件事故の発生について、右側歩道付近の歩行者の存在の有無等に注意を払わないで進行した点において、債権者には、前記就業規則一九条三号における「過失」があったものと一応認めるのが相当である。
 進んで、右過失の程度について検討すれば、前記認定の事実関係の下で、(1)本件事故時は夜間であり、事故現場付近の本件道路一帯は、事故時、街路灯等の点灯の状況から見て、相当に暗い状態であったこと、(2)亡Aの事故時の服装は、茶色のジャンパーに黒色のズボンというものであり、全体として暗色系統で目立ち難いものであったといえること、(3)事故時、本件道路上の車両の往来はあったものの、それも閑散としており、歩行者の姿はすでにほとんど目立たなくなっていたこと、(4)亡Aの道路横断の態様は、車道の横断歩道外横断の方法によるものであり、かつ、債権者から見て、反対車線側の歩道からの、対向車が通過した直後における横断であること、以上の事情を斟酌すると、債権者の過失は軽度のものにとどまり、前記就業規則一九条三号にいう、注意義務を著しく欠く意味での「重大な」過失があったものということはできない。
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 本件事故の発生について、債権者には、就業規則一九条三号所定の解雇事由である「重大な過失による自責事故を起こして会社に損害を与えたとき」における「重大な過失」があったとはいえないから、その余の点を検討するまでもなく、債権者は、就業規則の右解雇事由には該当しないこととなる。したがって、当該解雇事由を理由とする本件解雇処分は無効に帰し、債権者は、債務者に対して雇用契約上の地位を有するものというべきである。
〔休職-休職期間中の賃金(休職と賃金)〕
 債務者が従業員を特別休職処分に付した場合、仮に右休職期間中の賃金の決定について雇用関係上特段の定めを置いていないとすれば、民法五三六条二項が労働基準法二六条と競合して適用されるものと解されるが、本件の場合、就業規則一六条が同期間中の給与に関して、「特別休職の場合はその都度決定する」との規定を置いていることは前記のとおりであり、右規定は、特別休職期間中の従業員の給与について、債務者が、個々に、その支給不支給の別及び支給額を決定するものとしたもので、結局、同規定は、特別休職期間中の給与について、任意規定である民法五三六条二項の規律に委ねず、右適用を排除する趣旨を含むものと解せざるを得ない。しかし、他方、同規定に基づく債務者の給与に関する処分は、強行規定である労働基準法二六条に違反してはならないところ、特別休職が同条にいう「休業」に当たることはいうまでもないから、債務者が従業員を特別休職処分に付した事由が同条所定の「使用者の責に帰すべき事由」に該当する場合は、債務者は、右休職期間中当該従業員に対し、その平均賃金の六割以上の休業手当の支払義務を負担し、したがって、仮に債務者が、その場合において、当該従業員に対しこれを下回る額の給与を支給する処分(不支給処分を含む。)をしたとしても、右処分は、右下回る限りにおいて強行規定違反により無効となり、債務者は、同条所定の額に相当する給与(休業手当)の支払義務を負担するものというべきである。