ID番号 | : | 03973 |
事件名 | : | 減額賃金支払請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国鉄国符津運転所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 勤務時間内に洗身入浴した者に対してなされた賃金カットにつき、洗身入浴慣行の存在を理由としてカット分の賃金が請求された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法32条1項 民法92条 法例2条 |
体系項目 | : | 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 入浴・洗顔・洗身 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行 |
裁判年月日 | : | 1988年6月7日 |
裁判所名 | : | 横浜地小田原支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和59年 (ワ) 286 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例519号26頁/労経速報1354号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 西村健一郎・法学セミナー33巻11号115頁1988年11月 |
判決理由 | : | 〔労働時間-労働時間の概念-入浴・洗顔・洗身〕 原告ら検査、検修係全員が当然かつ必然的に作業終了後勤務時間内(退区時刻の一六時五二分まで)に洗身入浴を認められなければ、使用者である被告が労働基準法その他の労働関係法規に違反するといえるまでに、原告らが甚だしく身体が汚れているとまでは解せられない。そうすると、右の入浴自体の性質からして、使用者と被使用者との間で個別的労働契約、就業規則などにより特段の定めをしない以上、入浴中は使用者の指揮監督から離れるものといわざるを得ないから、右入浴時間はいわゆる労務の提供のなかった時間と認めるほかはない。 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕 一般に事実行為が継続し、それが事実たる慣習としての労働慣行として成立するためには、事実行為が長期間にわたって反復継続され、それが双方の明示の意思に反しないこと(異議をとどめなかったこと)だけでなく、就業規則、労働協約等により労働条件を定める権限を有する者か、実質上これと同視しうる地位にある者の規範意識(法的な義務意識)により右事実行為が支持されていることを必要とすると解されるので国府津機関区長等に被告が定めた就業規則のうち勤務時間の定めと改変(実質上は短縮)する権限があるかどうかが問題になるが、前記認定のとおり国府津機関区長等は労務の提供と認められない洗身入浴を労務の提供と認める権限も、原告ら検査、検修係員の勤務時間を短縮する権限も有しなかったことが認められるので、仮に本件洗身入浴の慣行が機関区長等の規範意識により支持されていたとしても、直ちに被告がそのような規範意識を有していたことにはならない。 (中略) 以上のとおり本件洗身入浴の慣行は法的効力をもつ労働慣行とはいい難いが、前記のとおり永年にわたって被告はこれを黙認して来たのであるから、信義則上も右慣行を破棄し、本件洗身入浴時間を賃金カットの対象とするためには、右破棄の意思表示を被告の従業員に周知徹底させ、今後勤務時間内に洗身入浴する者に対しては労務の提供がないものとして賃金カットする旨を告知する必要があると考えられる。 |