ID番号 | : | 03978 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国鉄鹿児島自動車営業所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 合理的理由なく本来の運輸管理業務からはずして構内に降り積った火山灰の除去作業に従事させられたとして、使用者に対し損害賠償が請求された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働義務の内容 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令 |
裁判年月日 | : | 1988年6月27日 |
裁判所名 | : | 鹿児島地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和61年 (ワ) 118 |
裁判結果 | : | (控訴) |
出典 | : | 労働民例集39巻2・3合併号216頁/時報1303号143頁/タイムズ696号138頁/労働判例527号38頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 三井正信・労働法律旬報1217号23~30頁1989年6月10日 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕 本件当時国鉄は長年にわたる赤字額の累積により経営上の危機に瀕しており、その再建を迫られる一方、職場規律の乱れが内外から指摘されて、その是正が求められたため、それに応えるべく経営能率の向上、職場規律の健全化などを果すことが、企業としての将来を決する重要な課題となつていた。右のような国鉄全体が置かれていた危機的状況を受けて、鹿児島営業所の上級機関である自動車部は、傘下の各営業所に対し、職場規律の確立に力を入れるよう指示し、その中の一つとして、服装の乱れを是正すること、業務中のワツペン、赤腕章等の着用を禁止するとともに、氏名札の着用を指示した。中でも職場規律の乱れが全国でも最悪と指摘された鹿児島営業所所長であつた被告Y1は、自動車部と打合わせて職場規律の確立に取り組むように特に指示されたため、被告Y2をはじめとする管理職らとともに営業所職員に対して、勤務時間中のワツペン、赤腕章の着用を禁止するとともに前記氏名札と着用場所が競合するとして、組合員バツチの着用をも禁止し、着用者に対して離脱命令を発していたものである。 以上の本件当時国鉄が置かれていた状況、ことに労働者、使用者が一体となつて経営の再建に取り組むべき状況にあつたことを考えると、使用者が労働者に対して、これまで以上に職務に専念すべきことを要求することは当然許されることであるし、そのため従来は労使慣行として行われてきたことについても見直しをはかることにも合理的理由があり、前記のようにワツペンや赤腕章とは業務阻害性の程度が異なるものの、組合員バツチを着用して勤務することは勤務時間中の組合活動に外ならないから組合員バツチの着用を禁止する措置に出ることにも一応の合理性が認められるものと言うべきである。ことに、本件の場合、当時国鉄が経営の合理化のために打ち出す種々の施策に対して、原告の所属する国労が反対する方針をとり、そのため労使間は恒常的に対立した状況にあつたことは公知の事実であり、前掲各証拠によれば、鹿児島営業所においても、ワツペン、赤腕章の着用などの斗争が行われ、被告らはじめ管理職と原告をはじめとする組合員とは対立した状況にあつたことに照らせば、そのような状況のもとでの組合員バツチの着用は組合員であることを勤務時間中に積極的に誇示する意味と作用を有するものであつて、労使間の対立を勤務時間中にも意識化して、職場規律を乱す虞れを生じさせるものであり、職務専念義務に違反するところがあると言わざるを得ない。 そうすると、結局、被告らが原告に対して組合員バツチの離脱命令を発したことには合理的理由があると言うべきである。 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働義務の内容〕 被告らの原告に対する組合員バツチの離脱命令には前示のとおり合理的理由が認められ、それに従わなかつた原告には職務専念義務に反する違法が認められるのであるが、その違法性の程度はさほど大きいものではなく、また、労働者の違法行為については他に労務契約上定められた懲戒の手段によるべきであつて、本件のようにかなりの肉体的、精神的苦痛を伴う作業を懲罰的に行わせるというのは業務命令権行使の濫用であつて、違法であり、不法行為を成立せしめるものである。 |