全 情 報

ID番号 03979
事件名 賃金等仮処分申請事件
いわゆる事件名 清風会光ケ丘病院事件
争点
事案概要  昇給、夏期・冬期の各賞与について組合との合意がまだ成立していない状況で組合員が実質的に合意が成立したと同じ状況にあるとして右請求をした事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
裁判年月日 1988年6月27日
裁判所名 山形地酒田支
裁判形式 決定
事件番号 昭和63年 (ヨ) 1 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例524号54頁/労経速報1341号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 確かに就業規則や労働協約あるいは個々の労働契約において昇給について定めがあっても、それを実施するために不可欠な昇給率ないし金額について具体的な定めがなされておらず、あるいは、労使間でこの点について交渉が妥結せず、合意が成立していない場合には、他にこの合意等に代わって引上げ分の支払請求権を具体化させるべき特段の事情がないかぎり、労働者にその合意に達していない引上げ分についてまでの支払請求権はないものというべきであるが、本件においては、基本給の引上げ率に関する使用者の回答は、交渉が開始されてから本件仮処分審尋時に至るまで一年以上にわたり終始一貫しており、単に交渉の過程において駆け引きとして示したにとどまらず、修正する意思のない確定的回答として提示したものと考えられる上、この回答を低すぎるとして妥結を拒否している労働組合との意思の齟齬は数量的に可分な引上げ率についてだけであり(前記のとおり被申請人の回答には他に何らの条件も付されていない。)、しかも、労働組合は少なくとも基本給を引き上げることにつき争いの存しない三パーセントの部分については内金払を求めていたものであり、更にこれに加え、被申請人の右引上げ率に関する回答は労働組合員と非組合員とで区別することなく、一律に基本給を引き上げることとして提示されているものであるところ、非組合員及び労働組合を脱退した者に対しては既に右の引上げ率による昇給が実施されてこれが支払われていることなどの諸点をも併せ考慮すれば、未だ労使交渉が妥結していないものの少なくとも被申請人の回答にかかる三パーセントについては実質的には合意が成立しているのと同視してよく、したがって、労働組合に所属している選定者らに関しても他の従業員と同様昭和六二年四月分から右の率で引き上げられた金額での支払請求権が具体化しているものと見ることができる。
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 就業規則や労働協約あるいは個々の労働契約において賞与を支給する旨の抽象的な規定があっても、それを実施するために不可欠な支給率ないし金額について具体的な定めがなされておらず、あるいは、労使間でこの点について交渉が妥結せず、合意が成立していない場合には、他にこの合意等に代わって賞与の支払請求権を具体化させるべき特段の事情がないかぎり、その支払を請求することはできないと解すべきことは先に昇給に関し述べたと同一であるところ、本件においては、就業規則等に右の如き具体的な定めがなく、かつ、労使間で交渉が妥結していない上、労使間の合意に代わって賞与請求権を具体化させるべき特段の事情を認めることもできない。