全 情 報

ID番号 03996
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 葵交通事件
争点
事案概要  乗車拒否を理由とするタクシー運転手に対する解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1988年8月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和62年 (ヨ) 2279 
裁判結果 却下
出典 労働判例524号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 タクシー運転手が正当な理由なく顧客の運送の申し込みを拒否するいわゆる乗車拒否は、道路運送法一五条に定められた一般自動車運送事業者たるタクシー事業者の運送引受義務に反する行為であって、利用者の利便を著しく妨げ、ひいてはタクシー事業の適正な運営を阻害する行為というべきであるが、タクシー事業者は乗務員の乗務を直接に指揮、監督することができないから、右乗車拒否の防止は乗務員に対する指導、教育等を介して行う他ないところ、本件疎明資料によれば、債務者は乗務員服務規律に乗車拒否を含む違法行為の説明や注意事項を掲げ、入社時の教育訓練や毎月一回の明番講習会等でもこれを徹底し、タクシー業務の適性化を図り利用者の利便を確保するための事業を行う財団法人Aによる巡回講習も実施し、更には財団法人Aより債務者に乗車拒否等の指導報告書を送付され、明らかに乗車拒否を犯したと認められる者については懲戒解雇または予告解雇とすることなどを定めた違法行為に対する処分基準を作成し、その書面を社内に掲示して右基準を周知させるなど、乗車拒否等の違法行為防止のための指導教育を全乗務員に徹底していたことが認められ、債務者は右指導教育により乗務員に培われる自律性に対する信頼の下にタクシー事業を運営しているものと考えることができる。
 そして、右の事実によれば、債権者においても右指導教育により乗車拒否が厳に禁止されるべき行為であることを知悉していたものと推認し得るところ、債権者はそれにも拘わらず前記(一)記載のとおりの乗車拒否行為に及んだものであり、ここにおいて債務者の債権者に対する乗務員としての信頼関係は破壊され、債務者が債権者との契約関係を継続することは債務者のタクシー事業の運営に著しい支障をきたすものということができるから、債権者の右行為は前記就業規則第三五条第七号に該当するものということができる。