ID番号 | : | 04002 |
事件名 | : | 意思表示の効力停止等仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 四天王寺国際仏教大学事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 大学専任講師に対する自宅待機命令につき、右命令は単に就労義務を免除するものにすぎず、就労請求権が認められない以上、右命令の効力停止の仮処分申請については被保全権利を欠くとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止 |
裁判年月日 | : | 1988年9月5日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和63年 (ヨ) 1665 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働判例530号62頁/労経速報1358号23頁 |
審級関係 | : | 控訴審/04714/大阪高/平 1. 2. 8/昭和63年(ラ)502号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕 自宅待機は、使用者において労働者の具体的就労義務を免除し、労務の受理を拒否するものである。ところで、労働契約においては、労働者は使用者の指揮命令にしたがって一定の労務を提供する義務を負担し、使用者はこれに対して一定の賃金を支払う義務を負担するのが、その最も基本的な法律関係であるから、労働者の就労請求権について労働契約等に特別の定めがある場合又は業務の性質上労働者が就労を求めるべき特別の合理的な利益を有することなどから黙示的に合意が認められる場合を除いて、一般的には労働者は就労請求権を有するものではないと解するのが相当である。そこで、自宅待機は、労働者に就労請求権が認められる例外的な場合を除けば、自宅待機によって昇給等において差別されるなどの特段の事情がない限り、単に労働者の就労義務を免除するものにすぎず、労働者に法的な不利益を課するものではない。 したがって、自宅待機命令は就労請求権が認められる場合には法的な不利益を伴うものとして懲戒処分と解すべきであるが、一般には、就業規則上、懲戒処分として規定され、賃金が支払われないものとされている場合等は格別、特段の事情がない限り、単に使用者の有する一般的な指揮監督権に基づく労働力の処分の一態様であり、業務命令の一種であると解するのが相当である。 このように、自宅待機命令を業務命令の一種であると解すると、使用者は一般的な指揮監督権に基づき、原則として自由に命令を発し得ることになるが、そもそも、労働契約において、労働力を確保しながら、就労をさせないという事態は、通常予定されていないところであり、自宅待機には、法的な不利益はなくても、種々の事実上の不利益が伴うことが予想されることを考えると、合理性や必要性を欠いたり、その必要性と労働者の被る事実上の不利益を比較して、後者が特段に大きい場合等は、業務命令権の濫用として、自宅待機命令が違法となると解すべきである。 しかしながら、自宅待機命令が業務命令権の濫用として、違法であり、無効と解すべき場合であっても、業務命令には法的不利益が伴わない以上、自宅待機命令の意思表示の無効確認を求める訴えは、過去の単なる事実の確認を求めるものであるから不適法と解すべきである。したがって、自宅待機命令の意思表示の効力を仮に停止する旨の仮処分申請は、就労請求権が認められない限り、原則として、被保全権利を欠くものとして、却下すべきことになる。 |