全 情 報

ID番号 04003
事件名 金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 塩野義製薬事件
争点
事案概要  退職願の申出に対し人事部長の承認がなされており、退職願の撤回は成立しないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1988年9月6日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和63年 (ヨ) 1084 
裁判結果 却下
出典 労経速報1337号11頁/労働判例528号91頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願いの撤回〕
 右認定事実に照らすと、申請人が被申請人会社に対し退職願を提出し雇傭契約の合意解約の申込みをなしたのに対し、被申請人会社は昭和六二年三月二三日までに申請人の退職を承認することを内部決定した上、同月二四日申請人に対しこれを告知したのであるから、申請人と被申請人会社との雇傭契約を同年九月三〇日限り解約するとの合意が同年三月二四日に成立したものと認めるのが相当である。
 ところで申請人は、退職承認は辞令交付を必要とする要式行為である旨主張するが、私企業における労働者からの雇傭契約の合意解約の申込みに対する使用者の承諾の意思表示は、就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付等一定の方式によらなければならないものではないところ(最高裁第三小法廷昭和六二年九月一八日判決・労働判例五〇四号六ページ参照)、申請人が援用する被申請人会社の就業規則一三四条は、「従業員の採用及び任免は、社長がこれを行い、辞令をもってする。」と定めているが、右就業規則の第五章人事の第一節を「採用および任免」とし、第三節を「退職」とする構成となっており、右一三四条が第一節に置かれた規定であることからすると、右規定にいう「任免」は退職の承認を含まないというべきであるから、右規定は退職承認が辞令交付を要することの根拠とはならない。また退職承認が辞令交付を要する要式行為であることが一般的慣行であるとは認め難いし、被申請人会社において、そのような労働慣行が存することの疎明もない。もっとも、本件において被申請人会社が申請人に対し退職承認の辞令を交付しており、かかる辞令の交付自体は慣行として行われていることが窺われるけれども、審尋の結果によれば被申請人会社においては定年退職、希望退職の別なく辞令の交付が行われており、そうだとすると、慣行として行われている辞令交付は退職の確認的措置にすぎないと認めるのが相当である。よって申請人のこの点に関する前記主張は理由がない。
 なおまた、退職承認につき右就業規則一三四条の規定の適用はないから、退職承認が社長の決定を要する行為であるとも認めることはできず、むしろ(証拠略)によれば、被申請人会社の就業規則で様式が定められた退職願の決裁欄は人事部長の決裁をもって最終のものとしていることが明らかであり、退職承認は人事部長が決定し得ることとしていることが窺われる。