ID番号 | : | 04046 |
事件名 | : | 就業規則無効確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 広島荷役事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労災事故を減少させることを理由としてなされた定年年齢を六〇歳から五五歳に引き下げる就業規則の改正につき、合理性は認められず、右改正に異議を述べている者に対しては効力は生じないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法93条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制 |
裁判年月日 | : | 1988年11月22日 |
裁判所名 | : | 広島高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和62年 (ネ) 167 昭和62年 (ネ) 168 |
裁判結果 | : | 確定 |
出典 | : | 労働民例集39巻6号593頁/労経速報1369号18頁 |
審級関係 | : | 一審/05438/広島地/昭62. 5.20/昭和60年(ワ)1317号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則-就業規則の法的性質〕 ところで就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものである限り経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至つている。そこで、このような就業規則の変更によつて労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないと解すべきであるが、就業規則が労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定をすることを建前としているので、その規則条項の変更が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由としてその適用を拒否することは許されない反面、その合理性が存在しない場合その就業規則条項は効力を生じないものと解するのが相当である。 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-定年制〕 前記認定事実によると、本件において、従前の就業規則が労働者の定年を六〇歳と定めていた規定を五五歳に短縮することは、労働者が従前の就業規則によつて、解雇など特段の事由がない限り、六〇歳まではその意思に反して退職させられないという労働者の既得権を奪い、労働者に不利益な労働条件を課するものというべきである。そこで、本件就業規則改正に合理性があつたかの点についてみるのに、一審被告は右改正の目的は、五五歳以上六〇歳未満の労働者の労災事故発生率が高くその事故が重大事故になることが多くその結果一審被告の労災保険料率が高くなること、及び、右年齢の労働者はその労働能力が衰えたのに高給を維持しているので人件費を節減する必要があり、これを定年短縮により経営を改善することにあるという。前記認定事実中別表三によれば一審被告においては五五歳以上の労災事故発生率が三九名中一四件(三五パーセント)であり、五四歳以下のそれが四四九名中七二件(一六パーセント)であることが明らかであるが、右労災事故の発生には臨時雇用労働者の事故が多発していることも明らかである。そしてこれら臨時雇用労働者についてはもともと、定年制の適用がない。そうだとすると定年の短縮によつて労災事故の減少という目的を達するには十分でないといわなければならない。また、前記認定事実によれば一審被告の売上に対する人件費の占める割合が昭和五四年以降高騰していることが明らかであり、昭和五九年ないし昭和六一年度決算において欠損を掲上しているが、一審被告の常用労働者中右年齢の労働者は常時平均六人強にすぎず、右認定事実によればそれらの者の人件費の占める割合は全人件費中の低い割合と考えられ、定年の短縮により全人件費を節減し経営改善を図るという一審被告の意図は到底達せられるものとはいえない。 それ故、一審被告のした本件就業規則の改正は、二年間の経過措置の定めがあることを考慮しても定年を短縮することには合理性があると断定することはできず、本件就業規則に異議を述べている一審原告に対しては前記説示により、その効力を生じないものといわなければならない。 |