全 情 報

ID番号 04143
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 ヤーマン事件
争点
事案概要  会社主催のパーティー会場等における団交要求行為は懲戒事由にあたるが、右行為を理由とする懲戒解雇は権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1985年12月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ヨ) 2208 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例467号55頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 債権者らのこれらの行為は、前記のようにY会社の信用や品位を傷つけるものであり、正当な組合活動として許容される限界を逸脱したものといわなければならず、その行為の態様に照らして、その責任は決して軽微なものということはできないのであって、もしY会社において何ら非難されるべき点がないにもかかわらず、これらの行為が行われたものであるとすれば、懲戒解雇処分を受けてもやむを得ないほどのものということができる。
 しかしながら、本件においては、Y会社の組合に対する不誠実な態度や組合の存在を否認する数多くの行為が見受けられ、このようなY会社の行動が債権者らの行為の主要な原因となったものと見ることができる。すなわち、Y会社は、組合との間の協定に反して事前協議や組合の同意なしに就業規則や協定の変更、破棄を通告し、また、組合からの団体交渉の申入れに対しては、一方的な団体交渉のルールを押し付けたり、資金繰りで多忙であるとして終業後でなければ団体交渉には応じられないとしつつ、債権者らの実家に赴き組合批判を行うなどして実質的な団体交渉拒否を行い、更に、ようやく団体交渉の席についたときでも組合が説明を要求しているY会社の経理状況や業務の分散移行などについて具体的な説明を行わないなどの不誠実な態度をとり、その一方で赤字を理由とする賃金遅配、減額の通告や一時金のゼロあるいは低額回答を行っていたのである。その上、Y会社は、昭和五五年八月二五日以降本件解雇に至る約四か月の間は、債権者らに対して七日間の出勤停止処分を一七回も繰り返し、結局出勤停止の期間は連続して一一九日に及んだ上、処分の理由はずさんなものであった。しかも、右処分の不当を主張して面会を求める債権者らに対して、Y会社の代表者であるAらは、Y会社の事務所を閉鎖してその所在を明らかにさえしないという無責任な態度に終始したのである。また、Y会社、B会社、C会社、D会社等の関連会社の設立、商号変更、業務の移行等の経過についても不可解な点が少なくない。
 これらの事情にかんがみると、債権者らが、これらの措置に抗議して本件で問題とされている各行為に及んだことは、その動機において酌量すべき事情があり、債権者らの行為の責任の少なからざる部分はY会社において負うべきものということができるのであり、また、Y会社は、組合及びその構成員である債権者らを嫌悪し、これを企業外に排斥するために本件解雇に及んだものと解さざるを得ないものというべきである。そうすると、債権者らの前記の各行為が懲戒事由に該当するとしても、Y会社が自己の不当な態度を等閑に付したまま、これに対して懲戒解雇をもって臨むのは相当ではないのであって、本件解雇は解雇権を濫用したもので、無効であるといわざるを得ない。