全 情 報

ID番号 04144
事件名 地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 京新学園事件
争点
事案概要  試用期間を示されずに雇用された場合は、試用期間の定めなく雇用されたものとして、勤務態度不良等を理由とする解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
労働契約(民事) / 試用期間 / 試用期間の長さ・延長
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1985年12月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和60年 (ヨ) 2261 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例468号42頁/労経速報1251号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 ところで、使用者が労働者を解雇するには、解雇が労働者に与える影響の重大性に鑑み、社会通念上解雇をやむを得ないとするに足りる相当な事由の存在することを要し、そのような事由なくしてなされた解雇は、解雇権の濫用として無効と解するのが相当である。
 また、試用期間のある雇用契約は、試用期間中に従業員として不適格とされた場合には解約しうる旨の解約権留保付の雇用契約であると解されるところ、右留保解約権の行使は通常の解雇の場合よりは広い範囲における解雇の自由が認められるべきではあるが、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認することができる場合のみ許されるものと解するのが相当である。
〔労働契約-試用期間-試用期間の長さ・延長〕
 右認定事実によれば、申請人は、昭和六〇年三月二六日、被申請人に総主任及びプール指導の教諭として採用され、右採用に際し、被申請人から何ら試用期間を設ける旨の条件が示されることなく採用されるに至ったものであり、また被申請人の就業規則に試用期間を設ける旨の規定があることについて、申請人が告知を受けたのは、被申請人による解雇の意思表示がなされた後であって、右告知があるまで申請人は、就業規則の内容について全く知らず、試用期間のない普通採用であると思っていたこと、被申請人においては、一般に従業員を採用する場合、採用通知書を交付し、同書面に採用条件として就業規則により試用期間後本採用する旨明示しているが、申請人に対しては右採用通知書を交付することなく採用し、試用期間を設ける等の採用条件を付さなかったことが認められる。そうすると、本件雇用契約は、締結に際し試用期間を設ける旨の採用条件が示されず、右条件が労働契約の内容とはされていなかったものというべきであり(なお、労働基準法一五条一項参照)、従って、申請人において、就業規則の定めに従って試用期間を設けることを承認したことが認められない本件にあっては、本件雇用契約は、試用期間のない雇用契約であると解するのが相当である。
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 右のとおり、被申請人が解雇事由として主張する事実、ことにスイミング指導の不適格事由なるものは、いずれも認められず、前記認定の申請人の経歴、太秦校における就労状況に照し、申請人に経歴詐称が認められないことはもとより、幼児のプール指導に関する知識経験が欠如しているとは認め難い。そして、申請人は、就労していまだ一か月に満たず、スイミング指導は三日間行なったのみであり、水泳指導等における被申請人の指導方法と申請人のそれとに多少の相違があったとしても、申請人において十分改善可能なものと考えられる。また勤務態度についても、四月一日から二四日までの間、小犬の件を除けば、特に問題とすべき点は認められない(なお、小犬を連れての出勤が認められるとしても、一過的なもので、注意すれば申請人において容易に改善できる事柄である。)。
 そうすると、被申請人において申請人を解雇するについて社会通念上解雇をやむを得ないとするに足りる相当な事由があるとは認められず、本件解雇は解雇権の濫用として無効というべきである。(なお、本件雇用契約が被申請人主張の試用期間の定めのある解約権留保付の雇用契約であると解したとしても、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照して、客観的に合理的な理由が存在するとは認められず、社会通念上相当として是認することができる場合ではないので、解雇権の濫用として無効というべきである。)
 よって、申請人のその余の主張について判断するまでもなく、本件解雇は解雇権の濫用により無効である。