ID番号 | : | 04151 |
事件名 | : | 解雇無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 安浦農業協同組合事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 不正行為、職務能力の低劣を理由としてなされた解雇につき、すでに配置替の処分を実質上受けており、解雇権の濫用にあたり無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量 解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1984年10月26日 |
裁判所名 | : | 広島地呉支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和56年 (ワ) 96 |
裁判結果 | : | 一部認容 |
出典 | : | タイムズ549号291頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕 〔解雇-解雇事由-不正行為〕 以上の3ないし9に基づいて、本件解雇当時原告に前記就業規則四七条二項2号、3号に該当する事由が存したか否か(ひいては本件解雇が有効であるか否か)につき判断する。 まず、覚書事件は、本件解雇当時被告は全く認識していなかつたし、農機具代金事件についても、被告は、かつて一時期不審点があるとして調査したこともあつたが、その調査の結果原告に非はなかつたものとして結着をつけ、本件解雇当時においては、解雇理由としては全く認識していなかつたことはもちろん、「原告が所定の入金処理をしなかつた。」などという認識も全くなかつた訳であるから、右の両事件は右判断の資料とはなし得ない(しかも、農機具事件については、昭和五〇年三月ころに売却した農機具代金一〇万円を同年四月二五日に原告自ら受領しながら、内二万円につき正式な入金処理が遅れたことは事実であるが、原告は、八万円を被告に入金処理した同年五月八日に残二万円についても経済課のAを通じて同課の金庫内にこれを保管していたものであつて、その後正式な入金処理を失念していたにすぎず、原告が右二万円を自己の手元に置いたままにしていたわけではないこと前記6に認定のとおりであり、取り立てて原告の責任を追及すべき非違行為には該当しないものというべきである。)。 原告は、金融機関としての性格をも備える被告の職員として、本来極めて厳格さが要求される預金集金業務に関し、預金者から集金した金員の入金漏れ(B事件)及び入金遅れ(C事件)という事態を惹起しており、しかも、右のような事態を防止するためにも重要な役割を果たし、かつ、規程及び指導に基づいて他のほぼ全職員が用いている手段を、あえて長期にわたり用いなかつた(集金カード不使用の件)のであつて、これらの点、被告の金融機関としての業務運営上軽視することのできない非違(ないし落度)というべきこと明らかであるし、これに加えて、その出勤状況及び勤務態度には前記のとおりかなり不良な点があつて、被告の業務運営に必ずしも軽視できない支障を及ぼしていたことが容易に推察されるから、前記2号(前段の点)、3号(後段の点)に該当する事由があつたとの被告の主張にも無理からぬところがある。 しかし、当裁判所の結論を先に示すならば、次に述べるとおり、本件解雇は、少なくとも解雇権の濫用に該たり無効というべきであるので、以下に敷衍する。 〔解雇-解雇権の濫用〕 以上の諸点の外、これまでに述べて来た諸事情を総合的に考慮するならば、原告については、解雇理由自体、解雇するのでなければ業務の運営に重大な支障を及ぼすような場合にまで該当するものであるか疑問の余地があり、手続的に見ても、直ちに退職させるのではなく、まず戒告、減給、休職等の制裁処分(〈証拠〉によれば、被告もその就業規則においてこれらの制裁方法を定めていることが認められる。)をしたうえで、その後の改善をみてみる余地が十分に存したものというべく、そのような方法に措ることなく、本件のように、いきなり依願退職の強い勧告(実質的には解雇に該たるようなものであつたと評価すべきこと明らかである。)という挙に出、これにひき続いて解雇するに至つたのは、それが普通解雇であるにしても、少なくとも、社会通念上相当なものとして是認することができず、裁量の範囲を逸脱した不当なものであり、解雇権の濫用と評価すべきである。 |