全 情 報

ID番号 04153
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 ゴールド・マリタイム事件
争点
事案概要  経理本部長に対する無断早退を理由とする懲戒解雇につき、懲戒権の濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1984年11月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和59年 (ヨ) 864 
裁判結果 却下
出典 労経速報1213号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 本件疎明資料によれば、申請人は昭和五九年二月一六日の一週間位前から体調を崩し、風邪をひいていたが、同月一五日までにラングーンへ発送すべき緊急の書類作成をしたために会社へは休まず出勤し、同月一六日も午後三時半頃A社員の仕事も見通しがつき、船荷証券の署名もないことを確認してから会社を退出していること、被申請人においては昭和五七年頃から部長の休暇等一覧表を各部からB常務の手許に持ってきて、部長の欠勤、早退、遅刻をチェックする体制を取ったけれども、早退については所属部の社員にその旨口頭で伝えるのみであることが多く、かならずしも就業規則に定めている正規の手続が守られてはいなかったこと、申請人の昭和五八年の有給休暇が前年の繰り越し分を含め四〇日あったが、そのうち八日を消化したのみであり、昭和五九年も有給休暇は四〇日あったが、二月一六日までに一日も消化していないこと、従って、有給休暇は適宜取ることができる状況にあったこと、前記のとおり申請人が何回かにわたり無断早退をしたことが一応認められるが、被申請人は申請人を右事由により懲戒解雇以外のより軽い懲戒処分をしたこともないことが一応認められる。
 右認定事実によれば、申請人が何故自ら神戸支店まで小切手等を持参する必要があるのか。このような非能率的な仕事のやり方は上司の指示がなくても止めるべきではなかったかなどについて疑問が生じ、また正規の手続を取らないで早退していたことは本部長として職務に打込む姿勢に欠けるものが伺われ、所属社員に与える影響、特に志気をそぐことになるなどを考慮すると、申請人の本部長としての勤務振りには相当問題を有していたことは否定できない。しかしながら、被申請人のこれまでの対応の仕方、昭和五九年二月一六日の早退の事情等前記に認定した諸般の事情を考慮すると、解雇以外のより軽い懲戒処分をもって望むのはともかく、直ちに申請人の行為が形式的に懲戒事由に該当するとして懲戒解雇に付した処分は厳し過ぎるものであり、懲戒権の裁量の範囲を著しく超えているというべきである。従って、被申請人のした前記懲戒解雇は権利の濫用として無効である。