全 情 報

ID番号 04163
事件名 損害賠償請求、退職金等請求併合事件
いわゆる事件名 いわき市職員事件
争点
事案概要  市収入役のもとで働く会計係長の公金横領について、収入役等につき損害賠償の請求がなされた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 1970年1月30日
裁判所名 福島地いわき支
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ワ) 56 
昭和41年 (ワ) 207 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 下級民集21巻1・2合併号180頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕
 本件の如き場合に原告が右損害賠償債権を自働債権として、原告がAに支払うべき退職金等債務を受働債権として相殺が許されるか否かにつき判断する。
 原告は収入役について労働基準法第二四条第一項が適用されない理由として、地方公務員法第五八条第三項と同法第四条第二項を根拠として特別職である収入役には労働基準法の適用はない旨主張するけれども、原告が相殺の意思表示をした昭和三八年一一月三日、同四〇年三月一二日当時、地方公務員法第五八条第二項には労働基準法第二四条第一項の規定は、適用除外からはずされていた(その後、昭和四〇年五月一八日法律第七一号により労働基準法第二四条第一項地方公務員法第五八条第三項に追加され、同時に、同法第二五条第二項に労働基準法第二四条第一項と同旨の規定が追加された)ので、結局相殺が許されるかどうかは条例にそれを認める条項があれば(本件についてはそのような条項の存する証拠はない)それによるが、右条項がない場合は特別職たる収入役の退職手当金、夏季手当金について労働基準法第二四条第一項が適用ないし準用されるか否かにかゝり、収入役が労働基準法第八条、第九条による労働者といいうるか否か、収入役の退職手当金、夏季手当金が同法第一一条にいう賃金といいうるか否かにより定まるものと解すべきところ、収入役は地方自治法第一六八条第七項により準用される第一六二条、第一六三条、第一六四条、第一四一条、第一四二条等により特別の地位を有するものであり、かつその職務については、性質上独立性が保障されてはいるが、市町村との関係では使用従属の関係に立つ者というべきである。しかして原本の存在および成立に争いのない甲第一五号証(勿来市市長、助役、収入役の諸給与支給条例)によると右条例には「地方自治法第二〇四条の規定により市長、助役、収入役に対しては、この条例の定めるところにより給料及び旅費等を支給する」(第一条)旨ならびに収入役の昭和三八年一月一日以降の給料は月額金六万円(第二条)であり他に一般職に属する市の職員の例により扶養手当、寒冷地手当、期末手当等を支給する(第三条)旨の規定が存することが認められ、右事実と被承継人A本人尋問の結果によると、勿来市収入役は常勤でかつ一般職の職員に準じた給料、手当の支給を受けているのであるから勿来市収入役は労働基準法第八条第一六号、第九条にいう労働者に該当するものというべきである。
 また夏季手当が労働基準法第一一条の労働の対償として支払われるものであることは論をまたないし、原本の存在および成立に争いのない甲第一七号証(勿来市職員退職手当支給条例)によると、収入役の退職手当については勤務成績等による自由裁量の余地は認められず、退職の日における給料月額と在職月数により機械的に算出される額を支給すべき旨定められているのであるから、これによる退職手当は過去の勤務に対する対価として支払われる給料の後払い的性格の面を有し、労働基準法第一一条の賃金に該当するものというべきである。
 従つて、右夏季手当金、退職手当金については同法第二四条第一項によりAに対し全額直接払をすべきであるから、原告いわき市は本訴の反対債権をもつて相殺することは許されない(最判昭三六年五月三一日民集一五巻五号一四八二頁参照)ものというべきである。従つて、原告の本件相殺の各意思表示は無効である。