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ID番号 04175
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 練馬交通事件
争点
事案概要  タクシー会社の従業員が業務中に交通事故を引き起し会社が被害者に賠償したあと、右従業員に求償した事例。
参照法条 民法715条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1970年3月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 1480 
裁判結果 一部認容
出典 下級民集21巻3・4合併号469頁/時報588号30頁/タイムズ246号177頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 被告は、不法行為者として民法七〇九条により、第一ないし第四事故によつて原告会社に生じた原告車輛の破損による損害および第二、第四事故によつて右第三者に生じた損害を賠償する責任がある。また、右第三者に生じた損害については、自賠法三条もしくは民法七一五条一項により、原告会社にも賠償責任があるところ、原告会社の右責任は原告の不法行為により発生したものであるから、被告は、原告会社との間の労働契約上の債務を本旨に従つて履行しなかつた者もしくは不法行為者として、民法四一五条もしくは民法七〇九条により、原告会社に対し、原告会社が第三者に対して右損害賠償債務を負担したことによる損害をも賠償する責任があるといわなければならない。
 (中略)
 被告は、被用者が業務の執行中に発生させた事故につき、使用者が被用者に対し請求権を行使することはおよそ権利の濫用である旨主張するが、右主張は採用できない。しかし、一般論としてではなく、個別的見地から検討してみると、本件の場合、第一ないし第三事故に関する原告会社の請求権の行使は、次の理由により、信義則に反し、権利の濫用であると解するのが相当である。
 (中略)
 タクシー会社は、運転者を事故発生の危険性が極めて高い車輛運行の業務に従事させ、これにより企業収益をあげているのであるから、運転者と右危険を分担すべきものであつて、現実化した危険を右水揚げに対して占める運転者の給与部分を超えて運転者に負担させることは、公平の原則上妥当でない、と考えられる。しかも、本件の場合、原告会社は、企業として当然なすべき危険の発生に対処すべき保険加入等の事前措置を怠つていたのであるから、右運転者の負担すべき危険の半分をさらに原告会社に負担せしめるのが労使間の負担を公平ならしめるゆえんであろう。結局、原告会社に生じた損害のうち強制保険により填補できなかつた残余額中、原告会社が被告に対し賠償を求めうる割合は、給与部分約三六パーセントの二分の一すなわち一八パーセントと認めるのが相当である。