全 情 報

ID番号 04190
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 三井鉱山事件
争点
事案概要  企業整備を理由とする整理解雇につき、勤務態度不良という整理基準に該当するとして大半の者につき、解雇有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1970年6月27日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ヨ) 444 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 時報608号3頁/タイムズ253号75頁
審級関係 控訴審/福岡高/昭48.12. 7/昭和45年(ネ)509号
評釈論文 福島淳・日本労働法学会誌36号142頁
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 企業に雇用されて稼働する労働者の大部分はその稼得する賃金を生活の資としており、かつ労働者が一旦解雇せられると従前以上の労働条件による再雇用が必らずしも容易とは云えないわが国の現状下にあつては、たとえ、企業経営が多少困難となり各会計期間の収支決算の結果欠損金を計上するような事態に陥ったとしても、費用を節減するため直ちに労働者を解雇することはそれ自体好ましくなく、解雇を免れた労働者にも雇用関係の安定性に対する信頼感を喪失させ積極、自発的労働意欲を減殺するおそれもあり、その反面ことに指名解雇は残存労働者の一部に次回に実施されるかも知れない人員整理による解雇を免れようとして必要以上に職制の意に迎合して卑屈な態度さえ取りその歓心を買って自己に対する勤務評価をよくしてもらおうとする者が出ることも考えられるので充分な再就職の保障等特段の用意なくこれを行なうことは労働組合の立場からも忍び難いことで、従って企業経営者としては相当永続的な経営不振状況に当面した場合でもできるだけ人員整理の手段に訴えることをさけ、それ以外の方法で費用を節し経営能率を向上させて収益の増大を図り、よって経営不振を打開することが望ましいけれども、企業がそれぞれ独立し、少なくとも収支相い償って存続してゆくことを前提とする現行社会体制下では、右人員整理の制約は企業に対し要請される社会倫理的次元の責任であって、永続的経営危機を打開し、企業の再建、存続を図るため費用節減の手段として相当多数の労働者を経営者の責任において整理解雇することを違法と云うことはできず、その際整理員数の決定、整理解雇の方法(希望退職者を募集するか労働者を各個別に解雇するか等)、被解雇者の人選等も強行法規、労働契約、労働協約中の特段の定等に抵触せず、また永続的経営危機の打開と云う本来の目的に背馳する不合理なものでないかぎり経営者が独自の見地からその責任において判断、決定すべきもので(その判断、決定に誤があれば経営成績の一層の悪化を招来することになり、また労働組合としては整理解雇に反対するためには団体交渉を通してその撤回を求め、さらにはストライキ等正当な争議行為によって対抗することとなる。なお右整理解雇につき労働組合の諒解を得ることが最も望ましいことは勿論である。)、その際多くの場合設定される整理基準も普通は被解雇者の人選の内部的目安とする意味を有するにすぎないと解せられるので(なお相当規模以上の企業の人員整理についてはなんらかの整理基準を設定するのでなければ被解雇者の人選が不能または著しく困難となる場合が多いであろう。)使用者が整理基準に該当しないと客観的に判断される者は一切解雇しないことを特に約したと解される等特段の事情のないかぎり、裁量判断の余地のある整理基準該当性の判断を単純に誤ったと云う一事だけ(たとえば勤務態度不良と云う人選基準を設け劣位者から解雇することとしたところ、某労働者は客観的に見れば極めて劣位にあるのに職制の監視する際には極めて誠実らしく立ち回ったため、本来はそれより優位にあるべき労働者がより劣位にあると誤認されて解雇されたような場合)によっては整理解雇が無効になるものではない(右判断を誤った結果、解雇が強行法規、労働契約、協約等に違反し、または整理解雇の目的に背馳する著しく不合理なものとなるときは無効とされることは勿論である。)
 しかしながら多数の労働者を一時に解雇する際には正当な組合活動を実行する者までも嫌忌し、または特定労働者に対し単なる恣意から不快感を抱く使用者が、これらを整理解雇に藉口して企業から排除しようとする傾きのあることもまたみやすいところであるから、整理基準該当事実の不存在はその事実自体および、労働者の過去の行為、使用者の当該労働者に対する差別的態度その他諸般の事情と相いまって不当労働行為意思の存在または解雇権が濫用されたことを推認する極めて有力な資料となるものと解すべきである(なお整理基準が一般的には被整理者人選の内部的目安にすぎないことからすれば整理基準に該当する一事から解雇が論議の余地なく有効なものになるとも云えない。)。
 前項一ないし一二の認定事実、これに基づく判断と右に説示した整理解雇の法理に徴すれば第二次企業再建案に基づく人員整理自体およびそのうち三池鉱業所、港務所での指名解雇がすべて不当労働行為であって一般的に無効であるとは断ぜられず、結局後記一四以下に説示するところに従って各申請人につきその効力を個別に判定するほかはない。