全 情 報

ID番号 04191
事件名 労働契約関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 小野田セメント事件
争点
事案概要  就業規則および労働協約上の「職場・職種の変更」、「配置転換」の定めには系列会社などへの出向を含むとして、右規定にもとづく出向命令拒否を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向と配転の区別
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1970年6月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (ワ) 11771 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集21巻3号1019頁
審級関係 控訴審/00330/東京高/昭48.11.29/昭和45年(ネ)1807号
評釈論文 手塚和彰・季刊労働法79号126頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向と配転の区別〕
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 (4) 右に認定したところによれば、前記昭和四〇年八月九日締結された二個の労働協約により、会社の就業規則、給与規程およびこれらの附属規程である他社派遣社員取扱要領は組合員たる従業員についての労働条件として労働協約の内容となつていたもので、就業規則第三一条にいう「転勤、職場・職種の変更」および基本労働協約第一五条にいう「配置転換」には、右労働協約の成立前から被告会社において行われていた系列会社ないしは生コン会社への派遣をも含むものと認めるのが相当である。しかして、原告が前記労働協約の締結前から組合の組合員であつたことは、原告の自認するところであるから前記労働協約により、原告は被告会社の系列会社または生コン会社への出向命令に応ずべき雇傭契約上の義務を有していたものであり、会社は原告に対し本件出向を命じ得る権限を有していたものというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 成立に争いのない乙第二号証によれば、会社の就業規則第五八条には、懲戒解雇事由を列挙していることが認められるところ、原告の本件出向命令拒否は同条第九号定める「前各号に準ずるふつごうな行為があつた者」に該当するものと認めるのが相当である。
 ところで、前記乙第二号証によれば、右就業規則第五八条には、「情状によつては、降格、出勤停止または譴責に止めることがある。」旨定められていることが明らかであるから、同条列挙の懲戒解雇事由が存する場合においても、情状酌量の余地があつて降格、出勤停止もしくは譴責の処分に止めることが相当と認められるに拘らず、あえて懲戒解雇に付した場合には、当該解雇は解雇権の濫用として無効と解し得るのであるが、前記本件出向の必要性と会社の提示した出向条件ならびに原告の組合活動などについて認定した諸事実に照せば、原告において本件出向命令を拒否した理由が、たとえその主張の如く出向先のA会社が遠隔の地にある小会社であり、原告の生活と組合活動の権利を守るためであつたとしても、これらの事情だけでは、いまだ情状酌量すべき関係にあつたものとは認めがたく、その他に原告を降格、出勤停止もしくは譴責の処分に止めることを相当とする特段の情状の存したことを認めるに足る証拠はない。したがつて、会社が原告を懲戒解雇に付したことは相当であつて、裁量権を逸脱した違法はない。
 原告は、本件解雇に至る過程において会社側に信義に反するものがあつたと主張するが、既に認定した事実に徴し、かかる諸事情があつたとは到底認め難いから、原告の右主張は採用できない。
 更に、原告は、本件出向命令は不当労働行為にあたるから右命令拒否を理由とする本件解雇もまた不当労働行為に該当し無効であると主張するが、本件出向命令が不当労働行為であるとなし得ないことは、既に判示したとおりであるから、原告の右主張は、その前提を欠き、採用の限りでない。