全 情 報

ID番号 04196
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 東燃石油化学事件
争点
事案概要  工業高校卒の技術系職員に対するセールスエンジニアへの配転命令拒否を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1970年7月13日
裁判所名 横浜地川崎支
裁判形式 決定
事件番号 昭和44年 (ヨ) 276 
裁判結果 却下
出典 労働民例集21巻4号1171頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 申請人に対する転勤命令が職務内容の変更を伴なうものであつたことは前記のとおりであり、勤務場所ならびに職務内容はいずれも労働契約の要素と解するのが相当である。しかし疏乙第二号証によれば、申請人が会社に雇傭された日より以前の、昭和三七年一〇月一日から施行されている就業規則第八条は「会社は業務上または保健上の事由により転勤、配置転換または出向を命ずることがある」と定め、一方疏乙第一号証の一、二によれば、申請人は会社に雇傭されるに際し、「会社の諸規則を守り、上司の命令に従い、職場の秩序を保ち、同僚と協力して忠実義務を遂行する」旨の誓約書を差入れていることが認められる。そして、他に特段の契約を結んだことを認めるに足る疏明がないから、これにより申請人は会社に対し、業務上必要のあるときは、会社がその一方的意思表示により勤務場所、職務内容等の変更を命じ得ることを承認し、会社にその権能を付与することを合意したものと云うべきである。そして右の合意は入社後新設された事業所への転勤についても、これを除外する特約を結ばない限り、当然妥当するものと解すべきであるところ、大阪営業所が開設された際、特約を結んだ形跡も見当らないから、会社の本件転勤命令が労働契約に違反するとはいえない。よつて、申請人の右主張は理由がない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 申請人は、本件解雇は就業規則の解釈適用を誤つたもので無効である。すなわち、転勤命令等の業務命令に従わないことは、就業規則第二一条により譴責または減給が原則であつて業務命令違反を理由として懲戒解雇をなしうるのは第二二条により、それが「特に重く、情状酌量の余地がない場合」でなければならないところ、申請人は従来の職種が適性であり従来まじめに勤務し、適格を疑われることはなかつたのであるから、試験係で仕事を継続させることができるのであつて、その職場から排除しなければならぬ事情はない。従つて右規定を適用したのは誤りである、と主張する。
 しかし、会社は、当時大阪営業所に従業員一名を転勤させなければならない業務上の必要があつたこと、その要員候補者として申請人を最適任者と認めて転勤を命ずることとしたことは、前記(三)に記載のとおりであつて、右転勤命令には合理性が認められる上に、発令日である一〇月一日から同月一四日解雇するまでの間、会社は前記(四)に記載のとおり説得を続けたのに、申請人は頑なにこれを拒否し続けたのであるから、会社が、申請人の業務命令違反はその情が重いと判断したのは相当である。よつて、申請人の右主張は理由がない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 申請人は、本件解雇は解雇権の濫用であつて無効である。すなわち、転勤命令を拒否したのは正当であつて、何ら業務命令違反がないのに、これを解雇したのは、申請人の組合活動、政治活動を理由とするものにほかならないし、従来真面目に勤務してきて試験係として適格であるのに、右職場から申請人を排除する合理的理由は全くないから、解雇権の濫用である、と主張する。
 しかし、本件転勤命令は、前記の如く、申請人が会社に雇傭されるに際してなした、会社との合意に基く業務命令と認められるから、これを拒否したことは業務命令違反となることは疑を容れない。しかも、本件解雇が、申請人の組合活動、政治活動をしたことを理由とするものであること、もしくは試験係の職場から申請人を排除することを目的としたものであることを認め得る疏明はない。すでに述べたように、本件転勤命令は労働契約に違反するものではなく、合理性が認められるのに対し、申請人がこれを拒否するについての正当事由の存在はこれを認め難く、情理を尽した会社側の説得にも拘らず、遂に翻意しなかつたため、会社は止むなく解雇したものであるから、これをもつて解雇権の濫用となすことはできない。よつて、右主張も採用しない。