全 情 報

ID番号 04210
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 石井鉄工所事件
争点
事案概要  配転命令拒否を反省して就労すれば懲戒解雇を取り止める旨の通告にもとづき就労したが、なお労働委員会に救済命令を申立てたことを理由とする懲戒解雇につき、信義則に反し無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条2項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1970年11月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 1686 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報618号86頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 右認定の事実によると、会社は、同年九月二六日発令した工事部倉庫課への配転命令に原告両名が従わなかったので、内部的に懲戒解雇の方針を一応決定したけれども、なお原告両名に再考を促し反省の機会を与える趣旨で、原告両名に対し、同年一二月五日正午までに配転先の倉庫課に勤務するよう勧告するとともに、期限までに勤務した場合は懲戒解雇を取り止める旨の意思を表明して解雇権を行使しないことを約したところ、原告両名は、懲戒解雇を受けることを避けるため、会社の右勧告に応じ、指定された期日に配転先の職場に就労したもので、その後の原告両名の勤務状況は、客観的にみて労働契約の本旨にかなった労務の提供というに妨げなく、会社も原告両名の提供した労務の給付を異議なく受領していたものと認めるのが相当である。
 ところで、被告は、原告両名は本件配転命令について反抗的内心意思を有し、その就労も組合の指令によるもので見せかけに過ぎず、労働関係の人格的特質に照らすと、原告両名には会社の指揮命令に服従して労務を給付する意思はなかったというべきであると主張する。
 もとより、労働関係は、労働力が労働者の人格と切り離し得ないものである以上、例えば、労働者の智能、性格、教養などの精神的条件が労働力の価値に影響を与え、また、労働遂行の過程においても、労働が労働者の人格と不可分の労働者自身の行為であることから、使用者が労働力を体現する労働者に対して命令ないし強制する契機を生じ、その意味において、使用者と労働者との間にいわゆる人的従属関係が存在することは否定できない。しかし、このような人的従属関係は、労働関係を基礎づける労働契約で約された労働者の労働力利用の範囲内においてのみ認められるべきものであって、労働者が労働の意思と能力をもって所定の労働の場所に赴き、その労働力を使用者の指揮命令に委ね、給付された労務の質および量において債務の本旨に悖るところがなければ、労働契約上の義務は履行されたものというべきであり、その範囲を越えて、労働関係が労働者の企業(使用者)への全人格的ないし共同体的帰属という人格法的ないし身分法的性格を有するものと解することは相当でない。したがって、前記のとおり、原告両名およびその所属する組合が、原告両名の配転を不当としてこれに承服せず、労働委員会に不当労働行為救済申立をして争い、また、原告両名の就労が組合の指令によるものであったとしても、原告両名の就労後の勤務状況が客観的に労働契約の本旨に従った履行と認められる以上、被告の右主張は失当というべきである。
 そうすると、会社が、原告両名に対し、配転先の職場へ就労するよう勧告するとともに、就労した場合は、懲戒解雇権を行使しない旨を約したことは前記のとおりであるから、原告両名が会社の右表示を信頼して、一層不利益な懲戒解雇処分を受けることを避けるため、会社の勧告に従い従来の態度を変更して配転先の職場へ就労したにもかかわらず、その後において、会社が懲戒解雇をもってこれに臨むことは、信義誠実の原則に違反し、許容し難いものというべく、本件解雇の意思表示は無効といわざるを得ない。