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ID番号 04211
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 森尾電機事件
争点
事案概要  採用内定につき、高校を卒業できないことを解除条件とする労働契約が成立したとし、小児麻痺後遺症のため作業能力が劣るとしてなされた内定取消につき、解雇権の濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 採用内定 / 法的性質
労働契約(民事) / 採用内定 / 取消し
裁判年月日 1970年11月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 4046 
裁判結果 認容
出典 労働民例集21巻6号1550頁/時報613号25頁/タイムズ255号137頁
審級関係
評釈論文 外尾健一・季刊労働法79号118頁/宮島尚史・労働法学研究会報888号1頁/三島宗彦・法律時報43巻4号136頁/山口浩一郎・昭45重判解説194頁/山口浩一郎・判例タイムズ259号107頁/正田彬・判例評論154号14頁/石野隆春・労働法律旬報767号18頁/渡辺裕・ジュリスト505号133頁
判決理由 〔労働契約-採用内定-法的性質〕
 以上の認定事実から考えるに、原告の前記従業員採用試験の受験は、被告会社の提示した賃金・労働時間等に関する労働条件に従う労働契約締結の意思表示として被告会社に対する労働契約の申込であることは明らかである。被告会社が原告に発した「採用決定のお知らせ」は、その記載内容からして直ちに原告主張の如く原告の右申込に対する承諾の意思表示と認めることはできないが、被告会社は原告に対し採用試験の上、「採用決定のお知らせ」を発し、その後、原告が被告会社の求めに応じて所定の手続に従い昭和四二年二月二日頃誓約書および身元保証書を被告会社に提出し、被告会社において異議なくこれを受領したことにより、被告会社の従業員の雇入れに関する就業規則所定の手続は殆んど完了していること、被告会社の新規学卒者の採用に当つては、従来から前記のような手続が採られるだけであつて、その後に改めて契約書の作成もしくは採用辞令の交付などの手続が採られた慣例はないばかりか、就業規則上にもそのような手続の定がないこと、およびその後被告会社が原告のA高卒業直後から原告を実習生として被告会社の作業に従事せしめていることなどの事実に鑑みれば、被告会社が原告に対し誓約書および身元保証書の提出を求め、これを受領したことをもつて、前示原告の申込に対する黙示の承諾の意思表示をなしたものと認めるのが相当である。したがつて、昭和四二年二月二日頃原、被告間に労働契約が成立したものというべきである。ただ、前記誓約書の内容および右誓約書提出当時原告がいまだA高三年在学中であつた事実に照せば、右労働契約は原告が同年三月にA高を卒業できないことを解除条件とするものと解すべきところ、原告が同年三月一一日A高を卒業したことは、前示のとおりである。
〔労働契約-採用内定-取消し〕
 以上の事実によれば、原告についてさしあたり配属が予定されていた組立職場の作業に関しては、小児麻痺後遺症の為作業能力が劣り又は将来発展の見込がないものとはとうてい認め難く、又被告会社の他の職場に関しても、その各作業内容を原告の前記身体の状況に照して検討すると、未だ現場作業者として不適格とはなし得ないものと認めるを相当とする。そうとすれば、仮りに被告会社が昭和四二年三月二五日当時その主張の如き事情から、その主張のような基準による人員整理をしなければならないような状況にあつたとしても、原告が右整理基準に該当するものとは即断しがたく、他に原告が右整理基準に該当するものであつたことを認めるに足る証拠はない。したがつて、被告会社がなした前記解雇の意思表示は、爾余の点につき判断するまでもなく、解雇事由なくしてなされたものであつて解雇権の濫用として無効といわねばならない。