全 情 報

ID番号 04221
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本軽金属事件
争点
事案概要  大学卒業見習社員に対する協調性の欠如、レポート中の誤字脱字等を理由とする解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
裁判年月日 1969年1月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ヨ) 2399 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集20巻1号28頁/時報548号32頁/タイムズ232号298頁
審級関係 控訴審/東京高/昭45. 9. 4/昭和44年(ネ)221号
評釈論文 阿久沢亀夫・法学研究〔慶応大学〕42巻11号103頁/後藤清・判例評論126号37頁/山口浩一郎・判例タイムズ236号104頁/萩沢清彦・季刊労働法72号151頁/木村五郎・昭44重判解説160頁/和田良一・労働法令通信22巻4号10頁
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 前記一の争いのない事実及び二の1の認定事実を総合すると、学卒新入社員と被申請人間の四月一日付雇傭契約は「一個の雇傭契約であり、その内容は、(イ)その初期六ヶ月ないしこれに準ずる期間を教育と正社員たる資質判定を目的とする見習期間とする、(ロ)期間の定めのない雇傭契約であり、(ハ)見習期間満了に際し被申請人が見習社員を正社員たる資質を有すると判定したときはこれを正社員に昇任するが、若し正社員たる資質を有しないと判定したときはこれを解雇することができるという解約権が留保されている。」ものであると考えるのが相当である。
〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕
 解約権の行使は、「正社員とするに足りる適格性の有無」という選考基準に基いて行われるべきことは明らかであるところ、右基準は、社員の解雇基準が制限列挙的であるのに対比すると一見極めて広い範囲の裁量権を与えているように見える。また見習期間制度が設けられている以上、同じく従業員であるといつても、見習社員と正社員との間に解雇事由に差異の生ずることは当然のことといえよう。しかしながら、右裁量権は、無制限のものではないのであつて、それは見習期間制度の目的と機能により制限される。すなわち、見習期間は、近い将来において会社の社員となつて、その企業に貢献するために必要な基本的知識及び生産過程の基本的労働能力を修習会得させるという教育機能ならびに会社における職場の対人的環境への順応性及びその職場において労働力を発揮し得る資質を有するかどうかの判定機能を持つており、この機能を果させることが見習期間制度の目的であるから、右裁量権は、まず会社が実施した教育が右目的に即して社会的に見て妥当であることを前提とし、これによつて制限される。例えば、右教育によつてたやすく矯正し得る言動、性癖等の欠陥を何ら矯正することなく放置して、それをとらえて解雇事由とすることは許されない。また職場の対人的環境への順応性及び職場における労働力の発揮力といつても、その学歴、就くべき職種を考慮に入れた上、その平均的労働者を標準とすべきものである。また、判定機能は、採用試験において判定しえない事柄に関するものであるから、採用試験において判定し得る事柄は、原則として判定機能における判定の対象とすることはできない。更に、見習社員に採用する契約が前記認定の如き雇傭契約である以上、これにはもとよりこの種の契約における信義誠実の原則が作用するものであつて裁量権の行使が右原則に反するときはその範囲を逸脱したものとして許されない。
 (中略)
 以上認定したところによれば、被申請人主張の解雇理由のうちで、申請人の責任を問いうる事実は、昭和四二年四月七日のA会主催のBホールにおける歓迎会と、同年六月二九日のC株式会社本社工場見学における二回の遅刻だけである。ところで証人Dの証言によると、見習社員の選考担当者である人事部長、人事課長及び人事係長が申請人を解雇すべき旨を決定したのは、正に右六月二九日の右三者の協議に基くものであるが、右協議の際は、同日の遅刻の事実は右三者には報告されていなかつたことを認め得るから、右遅刻はいわば申請人の解雇理由の補強として付け加えたものというべきである。仮りに、正式の解雇決定は、見習期間経過の際であるから、その時期までの事由を挙げることは何ら支障のないものとしても、遅刻は僅か二回であり、申請人が平素遅刻を重ねたとの疎明はなく、また前掲疎乙第二号証及び証人Dの証言によれば、工場見学は前後五回行われていたものであることを認めることができるから、右遅刻は、申請人の資質判断の資料とするに足らず、いわんやこれをもつて、解雇の事由とするには当らない。その他見習期間中における申請人の勤務態度に誠実さを欠くとか、協調性に乏しいとかの事実を証すべき何らの疎明もない。しからば被申請人の申請人に対する本件解雇は正当な理由がないのになされたものであり、契約の信義則に反するものであつて、権利の濫用として無効であるから、申請人と被申請人との間の四月一日付雇傭契約は継続していることは明らかである。なお、右雇傭契約の性質は、前記二の2において判断したところから、被申請人に、申請人を正社員とするに不適格とする特段の事由がないときはこれを正社員に昇任する義務があるものと解されるから、被申請人は見習期間が経過した昭和四二年一〇月一日をもつて、申請人を正社員とする旨の発令をなすべきものである。