ID番号 | : | 04224 |
事件名 | : | 未払退職金、預金返還請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本炭砿事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労働者の会社に対する未払賃金(退職金)の支払請求に関連して、会社による組合費(臨時組合費)のチェック・オフの効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法24条1項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / チェックオフ |
裁判年月日 | : | 1969年2月12日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和40年 (ワ) 1162 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集20巻1号117頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 山口浩一郎・月刊労働問題145号118頁/手塚和彰・昭44重判解説163頁/野村豊弘・ジュリスト445号135頁 |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金の支払い原則-チェックオフ〕 労働基準法第二四条第一項但書により使用者が当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との間に書面による協定を締結し、労働組合費その他労働組合の組合員に対する賦課金を組合員である労働者に支払うべき賃金から控除して直接労働組合に交付する旨定めている場合においては、労働組合が個々の組合員から組合費等に相当する額の賃金の受領権限を授与され、個々の組合員に代つてこれを使用者から受領すると同時に、組合費等に充当する関係にあり、個々の組合員の賃金請求権は労働組合が組合費等相当額を使用者から受領することにより消滅するものと解すべきである。従つて、個々の組合員の賃金請求権が有効に消滅するためには、使用者、労働組合間に右のような労働基準法第二四条第一項但書に基づく協定が存在するほか、労働組合と組合員間において、規約所定の手続に従つた組合費等の徴収に関する有効な機関決定と組合費等に相当する額の賃金を労働組合が組合員に代つて受領するについての個々の組合員の同意を必要とするのであり、これらの要件を具備する限り使用者は弁済の免責を受け得るが、右要件の全部ないし一部が欠け労働組合に受領権限がないにもかかわらず、組合員の賃金から組合費等に相当する額を控除しこれを労働組合に引渡した場合には労働組合には受領権限がないのであるから、使用者はその免責を受けるに由なく、ただ表見代理または債権の準占有者に対する弁済(債権者の代理人と称して債権を行使する者も民法第四七八条にいう債権の準占有者にあたる)の要件を充足する限りにおいて右組合費等相当額の賃金請求に対し弁済の効果をもつて組合員に対抗できるものと解する。 (中略) ところで、前記(二)2のような労働基準法第二四条第一項但書による協定に基づき労働組合から文書で組合費殊に臨時費の控除依頼を受け、実際には臨時費徴収に必要な機関決定の不存在その他の理由により労働組合に臨時費相当額の賃金を受領する権限がなかつたにもかかわらず、そのことを知らずに善意で組合員の賃金から臨時費相当額を控除してこれを労働組合に引渡した使用者は、右控除及び引渡にあたりどの程度の注意義務をつくせば弁済につき過失がなかつたといえるかは、賃金全額払の原則に由来する個々の労働者の賃金債権の保護と組合費の天引制度が労働組合の便宜のために常態化、固定化している現状に伴う取引安全の要請のいずれに重きを置くかにかかつており困難な問題であるが、右のように今日組合費の天引制度が常態化、固定化しているからといつて、少なくともその安易な運用により労働者である組合員の生活に脅威を与えることは許されず、その点に着目して考察するとき、たとえば、労働組合の控除依頼の文書自体から組合規約所定の臨時組合費徴収に必要な機関決定がなされたかどうか明らかでない場合、名目は臨時組合費とされていても控除金額が従来のそれに比べて極端に高額であるのにその内容が不明であるか、または一応記載されてはいるが、その趣旨から前記(二)1のような労働組合本来の活動目的のための資金としての性格が非常に薄く臨時組合費としての控除項目に該当するかどうか疑義がある場合等には、使用者は労働基準法第二四条第一項の規定する賃金全額払の原則に留意し、少なくとも労働組合の役員その他の関係者から説明を求め、事情を確かめる等の注意義務を負うものと解すべきであり、右のような注意義務の行使としての調査が労働組合の運営に対する介入となるものでないことはいうまでもない。 |