全 情 報

ID番号 04229
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 国鉄仙台鉄道管理局退職勧奨事件
争点
事案概要  転勤命令を受けた国鉄職員が、右転勤命令を退職の勧奨に応じなかったことに対する報復であるとして、地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法96条
体系項目 退職 / 退職勧奨
裁判年月日 1969年2月24日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ヨ) 155 
裁判結果 却下
出典 労働民例集20巻1号159頁
審級関係
評釈論文 萩沢清彦・ジュリスト447号142頁
判決理由 〔退職-退職勧奨〕
 国鉄経営の大勢に鑑みるとき、仙台鉄道管理局が前例を破つて高年令者の人事異動を図つた措置は必ずしも不当なものということはできない(就労場所は労働契約の内容となつている旨の債権者等の主張は全立証をもつてするもその合理性を発見することができない)、又現場長等の当局者が再就職の斡旋、住宅の獲得、子弟の教育等生活設計の準備期間を慮つて比較的早い時期から退職年令に達した職員の内意を確かめ、できるだけ良い再就職先を斡旋しようとすることも当然の思いやりある措置と思われるので、本件の場合前記協定締結以前即ち昭和四一年一二月一七日以前に債権者X1及び同X2に対し前記説示のような程度の慫慂を行つたことは、内意の確かめ程度のものと解して差支えなく、これをいちいち取り立てて前記協定に違反した退職の勧奨行為ということはできない。又国鉄経営上、労務管理上の重大事態に思いを到すとき勧奨が或る程度繰返えし行われたからといつて、これを直に強要と見ることも穏当でない。要は退職の勧奨が強要に亘つてはならないという前記協定の趣旨に従つて当事者が理解と愛情を基調とした話合いを進めることが肝要であつて、その過程で該当者が退職の意思はないと言明したからといつて、それ以上勧奨してはならないというものでもなく、個人の意思の尊重と国鉄経営上の要請という両者の調和を保ちつつ行われることが望ましいのである。
 これを本件の各債権者に対する退職勧奨の前記経過において検討してみるとき、現場長その他当局者が転勤をほのめかして各債権者に退職を慫慂したことが最も問題となる惧れのある点で、その他の勧奨経過は必ずしも協定の了解事項に違反したという程度のものでないことが明かである。然して転勤をほのめかした点についても前述した異動措置の合理性が是認される以上、これをもつて直に強要ということはできない。問題は具体的な転勤命令が前記調和の観点に照らし果してどの程度の合理性があるか、どうか、その人事に報復的な意図が存在していたのではないかという点、更にいえば転勤を手段として退職に応じなかつた本人に不利益を与えたかどうかが検討さるべきであつて、若しこれに合理性が乏しく且つ報復的な意図が存在したとすれば、転勤命令を受けた本人は転勤する位なら退職した方がよいという気持に追い込まれないとも限らず、このような転勤命令を人事権の名において是認することは、転勤に藉口して退職を強制する道を開くこととなるので、かかる命令は最早や人事権行使の正当な範囲を逸脱した退職の強要というべく、前記協定に違反し無効であること明かである。