ID番号 | : | 04245 |
事件名 | : | 家屋明渡等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | シンガー・ソーイング・メシーン事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | アメリカの会社とアメリカ人との間の雇傭契約の解除に関して社宅の明渡請求がなされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 民法1条3項 法例30条 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1969年5月14日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和42年 (ワ) 6395 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 下級民集20巻5・6合併号342頁/時報568号87頁/タイムズ240号215頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 山崎良子・ジュリスト457号144頁/沢木敬郎・昭44重判解説198頁 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇権の濫用〕 本件につき日本労働法上重要な地位を占める信義則ないし権利濫用の法理を適用しないことは、直ちに日本の労働法によつて維持される社会秩序を破壊するとは断定できない。 けだし日本において解雇の意思表示の効力がこれらの法理により制限される実質的理由は次のとおりと考えられる。日本の労働市場は非流動的であり、嘗ては使用者に圧倒的に有利であつたのみならず、労働組合の団結及び交渉力は充分でなく、長期雇傭を前提とした年功序列賃金及び多額の退職金制度が一般に採用されている関係上、老若男女を問わず一旦解雇された労働者は、賃金、職務上の格付、退職金の算定等も含め同等又はそれ以上の労働条件を獲得して直ちに他に雇傭されることが困難であつて、解雇により生活上著しい打撃を受ける。こゝにおいて裁判所は労働者のかゝる事情と使用者の主張する企業経営上の要請とを比較考量して、そこに日本社会において妥当な一線を画すべく、解雇自由の原則に対しこれらの法理による制限を敢て加えたのである。 本件をみると前記のとおり被告はアメリカ合衆国国籍を有し、数々の職歴を経たのち右契約により、同国ニユージヤーセー州法によつて設立された法人の日本支社開発部ゼネラルマネージヤーという使用者の利益代表者たる地位を取得して来日し、右労務に服しつゝ月額三四万円及び六〇四ドル余(邦貨換算約二一万円)の報酬を得るのみならず建坪約四〇〇平方メートルに及ぶ邸宅(その相当賃料は一か月三五万円ないし四〇万円である)及び乗用自動車の無償使用を許容されている者であるから、前記のような労働事情のもとにある日本労働者とは無縁の存在である。従つて右契約終了の意思表示につき信義則及び権利濫用の法理を適用しないからといつて法例三〇条にいう公の秩序に反するとは到底考えられない。 |