ID番号 | : | 04270 |
事件名 | : | 解雇無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 石見交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | バス会社にバスガイドとして雇用されまだ試用期間中の者が男子従業員と会社外で情交し懐妊したことが、就業規則の「素行不良…の行為をして会社の体面を汚した」との条項に該当するとして解雇された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 企業秩序・風紀紊乱 |
裁判年月日 | : | 1969年11月18日 |
裁判所名 | : | 松江地益田支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和40年 (ワ) 62 昭和42年 (ワ) 2 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却 |
出典 | : | 労働民例集20巻6号1527頁 |
審級関係 | : | 控訴審/00422/広島高松江支/昭48.10.26/昭和44年(ネ)122号 |
評釈論文 | : | 小西国友・ジュリスト469号272頁 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-企業秩序・風紀紊乱〕 就業規則は当該企業内における法規範としてその企業の従業員を一般的に拘束する効力を有するものであると解するところ、かゝる就業規則において従業員の懲戒を定め、これにしたがつて従業員の懲戒を行なうことも是認されるものといわなければならない。けだし、就業規則を法規範とみる限りにおいて、その機能は企業内における秩序の維持にあり、かゝる機能を全うするためには、秩序の破壊者に対してこれを懲戒することも当然法規範として許されるものといえるからである。しかし、一方かゝる懲戒は就業規則が企業内の法規範であることの制約をうけ、その対象とすべき事項は当然企業内の秩序を破壊する行為に限られなければならず、企業をはなれた純然たる私行上の問題はこれに含まれないものといわなければならない。勿論私行上の行為であつても、企業の秘密を漏らし或いは企業そのものの体面を傷つけもつて企業の運営に害をおよぼすような、企業に対する忠実義務に違反する場合が懲戒の対象として含まれうるのは当然である。本件における被告会社の就業規則もかゝる観点から解釈されなければならないものと解するところ、成立に争いのない乙第二号証によれば、被告会社の就業規則第四五条には、懲戒解雇の事由となる行為が具体的に列挙されており、それらはいずれも一見して企業内の秩序破壊行為であることが明瞭であるが、唯一の例外として同条第二〇号には「素行不良又は不正不義の行為をして著しく従業員としての体面を汚し又は会社の名誉を損つたとき。」と行為を抽象的に定めている。しかし、前叙のとおり就業規則中の懲戒処分には、その対象となるべき行為は企業内の秩序維持の範囲内に限られるべきであるから、右被告会社の就業規則の懲戒規定を適用するについてもかゝる制限は付されなければならないというべきところ、成立に争いのない甲第九号証ないし同第一一号証によれば、次の事実が認められる。即ち、被告会社は本件で問題となつているAアパートのうち二部屋のみを女子従業員の宿舎のために賃借していたのであり、また被告会社浜田営業所に勤務する女子従業員もしくはガイドは全員右部屋に入居する義務があつたわけではない。一方訴外Bの居室は同訴外人が個人でこれを賃借しているものであつて、被告会社とは関係がない。してみれば、かりに原告Xが、被告会社の賃借した居室を出て右訴外人とその居室において同棲をし、また懐妊したという事実があつたとしても、それは全く私行上の問題であるということになる。したがつて、かゝる行為は企業の運営とは何ら関係がないから、前示認定の就業規則第四五条二〇号に該当するということはできない。勿論かゝる婚姻関係にない従業員間の同棲或いはその結果の懐妊というような事態が、被告会社主張のとおりあつたとすれば、その使用者たる被告会社にとつても名誉なことではないとしても、自動車運送営業を営む被告会社の業務を直接阻害するものでもなく、また右就業規則第四五条一二号には、会社内において賭博、暴行、傷害その他これに類する行為をしたときが懲戒解雇事由とされており、右規定の反対解釈として会社外におけるかゝる行為は懲戒解雇事由とならないものと解されるのに、会社外における情交およびその結果の妊娠を解雇事由と解することは甚だしく均衡を欠き不当である。 |