全 情 報

ID番号 04281
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 東洋ガラス事件
争点
事案概要  休憩時間中に、作業中の同僚、休憩中の同僚らに対して、国鉄による米軍のジェット燃料輸送反対署名の依頼をしたことを理由とする解雇につき、権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法34条3項
民法1条3項
体系項目 休憩(民事) / 休憩の自由利用 / 休憩中の政治活動
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務妨害
裁判年月日 1968年2月27日
裁判所名 横浜地川崎支
裁判形式 決定
事件番号 昭和42年 (ヨ) 260 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労働民例集19巻1号161頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休憩-休憩の自由利用-休憩中の政治活動〕
〔解雇-解雇事由-業務妨害〕
 被申請会社は、危険防止上、ビラ配付、署名活動等の行為は、工場内では時と所を問わず、これを行わないことが不文の職場規律とされていた、旨主張するが、使用者は元来労働者に休憩時間を自由に利用させなければならない(労働基準法第三四条)ものであるから、職場規律保持上これに制限を加えるのはやむを得ないとしても必要の限度内にとどまるべきは当然であり、職場規律保持に名をかりいたずらに従業員の行動に制限を加えることは許されないし、仮りに休憩時間中における従業員の行動に職場規律違反があつたとしても、右休憩時間自由利用の原則を尊重し、実害の有無等諸般の事情を適正に評価して対処すべきものであること言をまたない。疎明によると被申請会社は不振の事業を挽回するため、当時職場規律や作業秩序の保持に努力し、その旨を従業員に周知徹底させようとしていた事実は明らかであるが、前記のような性質の文書の署名活動を休憩時間中にもしてはならない旨の不文の規律が職場に確立されていたと認められる疎明はなく、文書の性質いかんを問わず署名活動を許さない職場規律があつたとすれば、休憩時間自由利用の原則からみてその当否は甚だ疑わしいものといわなければならない
 してみると申請人が自己の休憩時間中に、休憩中の他の従業員等に対して、署名を求めた前記(3)の行為は何ら咎むべきものではない。また、前記(2)の行為は、申請人は休憩時間中であつたし、署名を求められたAは被申請会社の従業員ではないから同人の作業を妨害したとしても、傭主たるB会社から厳重な抗議をうけたのなら格別、抗議をうけたともみられないのに被申請会社から重い咎めをうけるべき筋合のものではない。ただ前記(1)の行為については、申請人が作業中のCに対して行つたものであるから、職場規律違反といえようが、申請人は、単にCに声をかけ、署名用紙を同人のポケットに差入れたにすぎず、そのことによつてCの業務が妨害され、実害が生じたとは認め難いから、比較的軽微な違反行為というべきである。そうすれば、被申請会社が職場規律違反の行為として挙げるうち、そのような行為と認められるのは、前記Cに対する行為のみであり、これとても軽微な違反行為に過ぎないから、単にこの一事をもつて解雇するのは、たといそれが就業規則所定の懲戒解雇ではない通常解雇であり、職場規律の確立に努力中の折柄であることを考慮しても、あまりにも苛酷な処置といわなければならず、到底これに被申請人主張の「やむを得ない会社の都合」があるとはみられない。それゆえ、この解雇は、権利の濫用として許さるべきではなく、無効であり、申請人はなお被申請会社の従業員たる地位を有する。