全 情 報

ID番号 04284
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 竹本油脂事件
争点
事案概要  繊維工業化学科を卒業後、研究業務に従事する者に対する販売部門への配転命令拒否を理由とする懲戒解雇につき、就業規則所定の懲戒解雇事由には該当するが、権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1968年3月8日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (ヨ) 1694 
昭和41年 (ヨ) 1730 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集19巻2号331頁
審級関係
評釈論文 浜田冨士郎・ジュリスト440号138頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 ところで申請人は、本件解雇に至る経緯を考慮すれば、本件の申請人の行動は客観的にみて相当であり理由があるから、右義務違反に当たる事実はない旨主張するので考えるに、前記認定のとおり、申請人は大学以来繊維部門の研究に従事して来たため、営業三部でセメントコンクリートの販売に携わることに、自己のそれまでの研究や技術を生かせるものか危惧の念を抱き、納得できない気持に駈られたことは想像に難くないが、被申請人会社が社員の配転を行なうに当つて、すべての社員に納得のいく転勤命令を発することがほとんど不可能なこともまた当然のことであり、申請人としても右程度の不満は辛抱すべきであり、また会社がサークル活動や組合活動のため差別待遇をしたものと思い込んでいたとしても、一応会社の業務命令に従つて新職場につき、その上で組合に問題を提起し、組合員の賛否を問う方法もとり得たわけであるから、申請人が、本件発令を一度内諾しながら、九月二四日に至り意を飜し辞令を返上した上、同月二六日から新配置につくように命じた業務命令を無視し、職場を放棄したまま、同月二八日夕刻の組合大会で右転勤を肯定する決定が下されるまで、組合工作に終始したことは、客観的にみて相当で理由のある行動と解することはできず、むしろ転勤命令ないしは業務命令に違反するものとして、被申請人会社の従業員に対する懲戒解雇事由を定めた就業規則9・5・3の、「故なく会社の業務上の指示命令に服従せず、または事業上の秩序をみだしたとき」に該当するものといわなければならない。しかしながら、それだからといつて直ちに申請人が懲戒解雇に値するものと即断することはできない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 以上の諸般の事情を考慮するとき、申請人が、一時会社の転勤命令ないしは業務命令に一たんは従わなかつた言動が、形式的に会社就業規則9・5・3に該当するとはいえ、その前后の事情を考えれば直ちに懲戒解雇に処して、企業外に排除しなければならないほどに、企業秩序を乱したもので悪質な情の重いものとみることは相当でない。従つて本件懲戒解雇は、就業規則9・5の懲戒解雇規定をその趣旨、目的を逸脱して不当に適用したものであつて権利の濫用として無効であるといわなければならない。