ID番号 | : | 04297 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | マーガレット美容院事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 協調性の欠如を理由とする美容師に対する解雇につき、人手不足により他に容易に就職できる美容師に対しては解雇権濫法理を一般の労働者と同列に論ずることはできないとして、右解雇を有効にした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 協調性の欠如 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1968年7月18日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和41年 (ヨ) 2316 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集19巻4号831頁/タイムズ225号148頁 |
審級関係 | : | 控訴審/東京高/昭47. 3. 9/昭和43年(ネ)1689号 |
評釈論文 | : | 萩沢清彦・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕79頁 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-協調性の欠如〕 〔解雇-解雇権の濫用〕 一方被申請人本人尋問の結果及び文書の趣旨体裁から公文書であると認められる乙第一号証及び被申請人本人尋問の結果から成立の真正が認められる乙第三号証によると、美容師は特殊技能を有する技術者として近時極めて求人が多く、たとえば東京都労働局の調査によると、東京都においてもこの傾向は顕著で、昭和三八年一月から六月の期間についてみても、求人が九四〇名であるのに対し求職者は五〇七名で、このうち就職したものは一五一名であつて結局その充足率は一六・一パーセントであるし、又ある業界誌が数年前川崎市を中心に行つた「従業員定着の必要条件」についての調査でも美容師が同一店舗に定着する期間は平均三年九月で、インターンや見習生を含めると平均二年三月にしかならないことからも美容業界の人手不足が極めて深刻であることがうかがわれる。 かように美容師は求人数が求職者数を大幅に上まわる状況であるから、申請人の場合においても真剣に新しい就職先を求めれば比較的容易に就職できるであろうことは推測するに難くない。 このような事情に徴すると、美容師が解雇その他の事由による雇用契約の終了によつてうけるかもしれない打撃は他の一般労働者の場合に比してはるかに少いというべきであろう。とすれば、解雇権乱用の法理が解雇には正当事由を要するとする説と同様労働者保護の観点から構成されるものである以上、この法理を適用するに際し、右のような事情にある本件の場合は他の一般労働者の場合と同列に論ずることはできないというべきである。 しかして、前記解雇事由を通観するに、そこで認められる事実そのものは大体において些細なことで、懲戒解雇も止むをえないという程悪質なものではないけれども、前記のとおり従業員間の融和協調に好ましからぬ結果、それも単に表面的なものではなく、可成り深刻なものをもたらした点は見過すことができない。即ち、証人A、同B、同Cの証言によれば従業員中D以外のものが、申請人と共に働くことを喜ばない空気があり、特に解雇後にはもし申請人が復職するならばこの三名はむしろ退職したいとの意思を被申請人に表示したことが認められるが、これはX美容院のように小規模の企業で従業員の協調が重視されるところにおいては看過しえないことである。とすれば申請人の処遇は単に申請人自身だけの問題ではなくある意味では当時のX美容院の存立にかかわることであり、従つて申請人の所為は比較的些細なことであるというだけでは片付けられないものがある。 そして、権利乱用につき前記のような考えにたてば被申請人がこの際申請人を解雇することも止むなしとしたのも充分理解しうるところであつて、他に被申請人が申請人を解雇するにつきその動機に格別不当な点があるとか、或いは信義則にもとるとかとの点が見当らない以上、結局申請人の権利乱用の主張は採用し難い。 |