ID番号 | : | 04299 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 広栄工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 就業規則上の兼職禁止にもとづく懲戒解雇につき、無限定に会社の承認を要件としている点で公序に反するとして、右懲戒解雇が無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止 |
裁判年月日 | : | 1968年7月27日 |
裁判所名 | : | 鳥取地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和43年 (ヨ) 23 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働民例集19巻4号846頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 甲斐祥郎・月刊労働問題131号106頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-二重就職・競業避止〕 次に前記懲戒規定(右労働協約の内容となつている就業規則第四四条第八号後段の規定と同一内容)は憲法第二二条第一項に違反し、又は民法第九〇条に該当するもので無効であるとの点について考えるに、本来憲法上の権利は国家に対する国民の権利としての性質をもつから、憲法上の権利保障規定は私人間においては当然には妥当しないが、憲法が職業選択の自由を含め諸種の権利を基本的人権として承認したことは、それらの権利が不当に侵害されないことを以つて国家の公の秩序を構成することを意味すると考えられるから、何らの合理的な理由なしに、不当に右権利や自由を侵害することは、いわゆる公序良俗違反となる場合があると考えなくてはならない。 (2) ところで、本件においては申請人が被申請人の承認を得ずして他に雇い入れられるべく他社の面接試験を受けたことが懲戒解雇事由たる前記就業規則第四四条第八号後段の規定に該当するとして申請人を懲戒解雇したものであることはさきに認定したとおりであるが、右懲戒権の行使はそれが労働者に何らかの不利益を科すものである以上、その程度、方法が企業の経営秩序を維持し、業務の円滑な運営を確保するために、客観的にみて必要、最小限にとどめられるべきものであると解するのが相当である。このことは、たとえ懲戒規定が労働協約において設けられる場合にも妥当すべきものというべく、被申請人にとつても同条前段の「他に雇い入れられたとき」とは異り、未だ他に雇い入れられるための準備行為をした段階にあつては、使用者は労働契約に基き労働力の提供を受けることが不能もしくは困難になるものでもなく、労働者に後記不利益を忍受させることを是認し得るほどの企業秩序維持上の合理的理由を見出し難いのに比し、右規定のとおり被申請人会社の承認を得られない限り、労働者は自発的に退職し、失業の危険にさらされながらでない以上、自己の労働力を現在の状態より有利に他に処分する機会を行使し得ないとすることは自己の労働力を売る以外には生活資料を得る手段をもたない労働者の転職の自由を著しく制限するものであり、ひいては極度に人の生活を貧困ならしめるおそれがあるから、勤務時間の内外を問わず無限定に会社の承認を要求している右就業規則第四四条第八号後段の規定を契約内容とする申請人、被申請人間の労働契約部分は民法第九〇条の公序良俗に反し無効といわねばならない。そうすると申請人に対する本件懲戒解雇は解雇事由なくして行われたものというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく無効である(右規定が被申請人主張の如く運用上、実質的には労働者の届出以上の意味をもつものでなかつたとしても、このことを以つて右規定自体の合理性を肯認する根拠となし得ないことはいうまでもない)。 |