全 情 報

ID番号 04302
事件名 処分撤回請求事件
いわゆる事件名 光陽自動車事件
争点
事案概要  組合役員選挙に介入し、労使間に紛争を生ぜしめたとする、課長に対する減給処分につき、事実無根の事由によるものとして右処分を無効とし、慰藉料の支払いおよび名誉回復の告示の掲示を命じた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法709条
民法723条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1968年8月6日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ワ) 6247 
裁判結果 認容
出典 時報535号80頁/タイムズ226号131頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 そこで、右懲戒処分の理由の根本である選挙干渉の事実があったかどうかを判断するに、《証拠および証拠判断略》むしろ、《証拠略》をそう合して考えると、昭和四〇年五月二三日世田谷区民会館で行われた被告会社従業員らの被告会社労働組合定期大会の席上、組合員Aが隣席の組合員Bに迎合して同人に対し、被告会社が右大会の役員選挙に干渉を試みている例証であるとして当日朝会社幹部の一人から請求原因一の(三)の(イ)記載の如き言葉をかけられた旨虚構の事実を私語したところ、右Bは直ちに前記Aの制止をふり切って選挙管理委員Cに対し「会社側が組合員に特定候補に対し投票すべき旨要請して選挙に干渉している事実があるからこれを問題としてとり上げるべきである。」旨申出で、右選挙管理委員及選挙長協議の上選挙長から右選挙干渉の事実がある旨公表し且つ干渉にまどわされず投票すべきことを求めて、選挙を完了したこと、その後同年同月二八日組合において前記A、B、選挙管理委員C等につき事実調査を行い、その結果前記C委員から組合に対し訴外Aのあいまいな私語を軽卒にとり上げたことを謝罪したけれども、同日午後被告会社との団体交渉の席上に訴外Aが出席して、前記定期大会の朝同訴外人に前記の如き言葉をかけたのは原告である旨証言したこと、同じく右団体交渉に列席した原告はこれを否定したが、思いがけなかったので突嗟に反証をあげることができず、「自分はAの如き入社後日の浅い者に言葉をかける」ことはない旨申述べたに止まったこと、然るに被告会社は、原告の選挙干渉の有無につき更に慎重な審査をとげることもなく、右団体交渉の席上における原告の弁疏があいまいであったという一事によって選挙干渉の事実あるものと断じ、翌二九日前示の如き懲戒処分を行ったものであることがそれぞれ認められる。
 そうであるとすれば、右懲戒処分は無根の事実を理由としてなされたものであって、懲戒権の乱用として無効であると認むべきところ、右懲戒処分による減給のため原告が昭和四〇年六月二九日から同年七月二八日までの間の賃金総額の十分の一にあたる金五五〇〇円の支払を受けなかったことは当事者間に争いのないところであり、原告が右無根の事実を理由として懲戒処分を受けたことにより甚だしい精神的苦痛を受けたであろうことは事理の当然であって、その苦痛は、原告の被告会社における前認定の職歴、地位に照らせば金一〇万円を以て慰藉し得べく、なお右懲戒処分によって傷つけられた原告の名誉は、主文第二項の如き告示の掲示によってその回復をはかるべきものである。