全 情 報

ID番号 04306
事件名 裁決取消等請求事件
いわゆる事件名 北海道労働基準局長事件
争点
事案概要  組合員に対する配転が労基法に違反するとして労働組合が労基法一〇四条にもとづき労働基準監督に対して申告したことにつき、何ら回答がないと組合員が行政不服審査法七条にもとづいて審査請求したことに対し、申立を事実が明らかでないとする局長の回答は行政上の判定行為にあたるとして、右請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法104条
行政不服審査法7条
体系項目 監督機関(民事) / 監督機関に対する申告と監督義務
裁判年月日 1968年9月2日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (行ウ) 23 
裁判結果 棄却
出典 行裁例集19巻10号1563頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔監督機関-監督機関に対する申告と監督義務〕
 被告は、本件申告は法令に基づく申請にあたらず、従つて右審査請求は申請のないところに提出された不適法なものであつて被告の応答義務を生ぜしめるものではないから、これに対する本件被告の回答も単なる通知行為であつて裁決ではないと主張するが、原告の本件審査請求の性質がいかなるものであり、これに対する応答義務の存否如何はその審査請求の内容についての判断事項であるところ、弁論の全趣旨によれば、原告の本件審査請求の要旨は、一応原処分庁(留萠および札幌の両労働基準監督署長)に不作為があると主張してその是正を求めようとするものであると解し得るのに対し、被告の本件回答は、原処分庁に作為義務を生ぜしむる様な申告(訴え)がなかつたという事実調査結果の通知という表現をとつてはいるが、結局原処分庁に不作為がないとの理由により原告の右是正を求める請求を却下する意思表示を包含するものと解し得るから、単なる通知という事実行為に止まらず右不服申立に対する行政上の判定行為たる裁決としての性質を有するものと解すべきである。
 二 そこで本件裁決の当否につき判断するに、原告の全立証をもつてしても、本件申告の内容が原処分庁に何らかの行政処分を求めるもの、すなわち行政不服審査法第二条二項にいう法令に基づく申請であつて原処分庁に作為義務を生ぜしめる性質のものであつたことを認めるに足る証拠はない。
 原告は、訴外組合がなした本件申告は、法第二条第二項違反を理由とする法第一〇二条、第一〇四条の規定に基づく申告である旨主張するが、法第二条第二項は、労働者および使用者が労働協約、就業規則、労働契約を遵守し誠実に各々その義務を履行しなければならないという一般原則を宣言した訓示規定であつて、右の義務違反に対し、労働基準法上、原処分庁に行政処分をなす権限が生ずる性質のものではないというべきであるから、法第二条第二項違反を理由とする法第一〇四条の規定に基づく申告がなされても、原処分庁は何らの行政処分をなすこともできないから、訴外組合のなした本件申告は原告の主張するところによつても行政不服審査法第二条第二項にいう法令に基づく申請ということではできないし、法第一〇四条の規定による申告は、被告の主張するごとき単に刑事処罰発動を促すためのものではなく、法第一〇一条、第五五条等の行政上の権限の発動を促す場合をも包含するものと解せられるけれども、いずれの趣旨の申告であつても、法第一〇四条の申告は監督官庁の職権の発動を促すに止まるものであるから、この意味でも、行政不服審査法第二条第二項にいう法令に基づく申請にはあたらないといわなければならない。また、法第一〇二条には、労働者または労働組合が原処分庁に対し何らかの申請をなしうる旨の規定はないから、訴外組合が同条に基づき申告をしたとしても、前記法令に基づく申請があつたということはできないものというべきである。
 されば、結局において原処分庁に作為義務のないことを理由に本件審査請求を却下した本件裁決は適法であるから、その取消を求める原告の請求は理由がない。
 三 また原告主張の本件審査請求は、単に被告の前記留萠および札幌両労働基準監督署に対する監督権の発動(右職権の発動を促したに拘らずこれをしないことに対する)を促す趣旨の申立とも解しうる余地があるが、そのような上級行政庁に対し一般的監督権の発動を促すにすぎないものに対しては上級行政庁はこれに対し裁決をもつて応答すべき義務はないものと解すべきであり、それに対し、上級行政庁がその申立を却下する旨の応答をしても、その応答は、その監督権を発動しない旨の観念の通知に止まり、何ら法律行為的処分として申立人の法律上の地位を形成する効力を有するものではないから、その取消を求めるために抗告訴訟は提起し得ないというべきである。