ID番号 | : | 04312 |
事件名 | : | 仮処分異議事件 |
いわゆる事件名 | : | 全日本検数協会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 時間外労働が命ぜられた場合にはそれに応じることの趣旨で締結された三六協定につき、右協定に労働協約としての効力を認め、時間外労働拒否をストライキにあたるとし、政治的目的を有する右ストライキの指導、企画等を理由とする解雇は不当労働行為にあたらないとした事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法36条 労働組合法16条 |
体系項目 | : | 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務 労働時間(民事) / 三六協定 / 協定の効力 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1968年10月21日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和41年 (モ) 1112 |
裁判結果 | : | 取消,却下 |
出典 | : | 労働民例集19巻5号1316頁/時報541号79頁 |
審級関係 | : | 控訴審/01203/名古屋高/昭46. 4.10/昭和43年(ネ)839号 |
評釈論文 | : | 橋詰洋三・月刊労働問題130号132頁/川口実・法学研究〔慶応大学〕42巻5号90頁/中山和久・季刊労働法71号69頁/東城守一・労働法律旬報701号3頁/籾井常喜・労働法律旬報700号3頁 |
判決理由 | : | 〔労働時間-時間外・休日労働-時間外・休日労働の義務〕 〔労働時間-三六協定-協定の効力〕 昭和四〇年四月一日付分会の上部団体と申立人との間に締結された三六協定は、その当事者の一方が単に特定の事業所の労働者の過半数を代表するにとどまらず労働組合であること、代表者の署名押印を経た文書の形でなされたこと、同協定締結前においても従来確立された労使慣行として分会員の時間外勤務が行なわれていたこと、および、一方、賃金協定ならびに附属協定が分会員は時間外勤務義務を当然には負担しないことを留保して締結された等の事情については疎明もないことにてらせば、分会員が申立人から命じられた際は時間外勤務に服する義務を負担する趣旨で締結された労働協約であると認められる。 そうすると分会員等は、昭和四〇年四月一日付全港湾名古屋支部が申立人との間に締結した三六協定について、同年五月頃から六月頃にかけて労使交渉を重ね賃金協定ならびに附属協定の形で具体的に時間外勤務に関する賃金等の細目を定め終えた時期である昭和四〇年六月ごろにおいては、右労働協約の性格を有する三六協定上、申立人に対し一般的な時間外勤務義務を負担するに至つたものというべきであるから、昭和四〇年一一月一三日当時も、右一般的な義務を前提とし、具体的に申立人が前記職務配置等の方法により、特定の日時・場所での時間外勤務を命じた場合においては、申立人の承認を得た場合を除いて、当該時間外勤務命令を、自己の意思によつて恣意的に拒絶する自由を有しない状況にあつたものというべきである。 しかして前掲証拠によれば、昭和四〇年一一月一三日、分会員等について、既に時間外勤務命令が発せられていたことは明らかであるから、これについて右命令に服すべき義務が免除、阻却されていた等の事情も認められない以上、前掲疎乙第八号証によりその参加が認められる四二名の分会員は、一応申立人の許諾なく、時間外勤務拒否をなしたものと認められる。 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕 これを要するに、分会員等は、一一月一三日、形式的にはその目標として経済的目的ないしこれに付随する要求を項目としてかかげたものの、実質的には、日韓条約の批准に反対するため前記ストライキをなしたものであり、また、被申立人等が意を通じたうえ、これを具体的に企画・指導・実行させたことは明らかである。 しかしながら、いわゆる政治ストについては、これを違法とすることに全面的あるいは部分的に反対があり、被申立人等もそのことを主張するので、これについて更に判断する。 この点については、憲法・労働法が労働者に団結権・団体行動権・団体交渉権を認めた趣旨が、使用者との関係において労働者の地位を実質的に強化し、その経済的劣位を排除しようとする点にあることは何人も異論を差しはさまないところ、一方、使用者が時の政府の既存の条約の改定・廃棄・新たな条約の締結等、外交政策、政治問題についてこれを容喙し変更させるが如きは、例え、その使用する労働者の要求ないし支援があつても為し得ないこともまた自明の理であるから、労働組合が、単独もしくは特定の政治団体とともに、そのような政治問題に対する一定の政治的見解を前提とし、これに基づき右政治的要求を使用者に対する関係においても主張し、これについてストライキを行なうが如きは、他にそこに使用者との間で団体交渉の方法で解決し得べき経済的要求を付加的に主張しているといないとに拘らず、使用者との間で団体交渉の方法によつて妥結し得ない要求をそこに含んでいる限りにおいて、既に許されないところである。いわんや、前認定の本件ストライキの如く、その付加的な目標が実質的意図もなく、単に形式的にスローガンの一つに掲げられていたにすぎなかつた場合においては、これを以つて経済的ストライキに附随する政治ストライキの適否自体の問題ともなし得ないところである。なお、政治ストについては、自己の使用する労働者が、一定の政治的立場を採用したことの結果として、使用者が当然にストライキ自体による不利益を甘受しなければならないとの法理は、憲法が労働基本権を保障し、その限度において使用者の財産権の制限を認めているものの、一方において右制限を除く他、使用者の私有財産権ないしこれに基づく企業経営上の諸権利を承認している以上、それが貫徹ストでないとしても現行実定法秩序の上では、にわかに正当性を肯認し得ないところである。 したがつて、この点においても本件ストライキが、政治ストとしての違法性を阻却されないのは当然である。 してみれば、他に反対事実について特段の疎明もない限り、前記一一月一三日のストライキは、その手段・態様の適否を判断するまでもなくその目的において違法というべく、右ストライキについては、民事・刑事上の免責はあり得ず、いわんや、不当労働行為制度による救済を適用する見地においても、その正当性が是認されないこと当然である。 |