ID番号 | : | 04316 |
事件名 | : | 解雇無効確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三井造船事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | レッド・パージにかかわる会社の退職勧告と退職金受領につき、本件では合意解約が成立しており、心裡留保も認められないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3条 労働基準法2章 日本国憲法14条 |
体系項目 | : | 退職 / 合意解約 退職 / 退職願 / 退職願と心裡留保 |
裁判年月日 | : | 1968年11月28日 |
裁判所名 | : | 岡山地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和32年 (ワ) 33 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 時報559号82頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-合意解約〕 そこでこれらの諸事実を総合して判断するに、(一)原告X1他一四名と被告間の前記雇傭契約は、同月二三日をもって原告らの申込、これに対する被告の承諾の両意思表示の合致により合意解約されたと言うべきであり(本件通告の内容たる勧告は解約申込の誘引にすぎないから、これが解約の申込であるとの前提に立つ原告らの主張は失当である。)、(二)原告X2他四名と被告間の前記雇傭関係は、被告がなした前記本件通告およびその後これに引きつづいて被告がその主張の金員受領と同時に退職について一切異議を申立てぬ旨の付記ある領収書を用意して、退職金その他の給付の提供をしたという一連の行為には、右解雇の意思表示どおり退職の効果を生ずることにしようとする趣旨の契約申込の意思表示が含まれていたと解するのが相当であって、原告X2、X3、X4、X5において同月二五日、原告X6において同月二七日、それぞれ別段の条件等を留保することなく、退職金その他の給付を受領し、前記付記ある領収書を差入れたのであるから、原告らは被告のなした右趣旨の契約(以下、かりに示談契約という。)の申込を承諾したと言うべきであって、結局原告X2他四名と被告間の前記雇傭契約の効力もこれによって消滅したと言うべきである。 三 (一) 原告らは、かりに前記合意解約ないし示談契約が成立しているとしても、被告のなした原告らに対する合意解約の申込の誘引は、連合国軍最高司令官の行った所謂レッドパージに名を藉りてその実は原告らの思想信条を嫌い、かつ、原告らが帰属する第一組合を壊滅させるために行った違法のものであり、したがってこれと不即不離の関係にある、被告のなした原告らの右合意解約の申込に対する承諾の意思表示も、同様の瑕疵があると言うべきであり、また右示談契約の申込の意思表示も同じような瑕疵があるから、結局いずれの意思表示も無効であって、右各契約は有効に成立していないと主張するが、連合国軍最高司令官の行ったレッドパージの指示は、その範囲として、共産党員のみならずその同調者をも含み、かつ、これらの者が破壊的活動を現実にした場合に限らず、単にその虞れがあるにすぎない場合でもこれに及ぶとしている点でその基準とするところが必ずしも明確と言えないうらみがあり、かかる場合、被告としては、指示の趣旨を実現するにあたって、それを厳格に解するか否かによって対象者の範囲があるいは広く、あるいは狭くなる筋合であるから、かりに右指示の定める対象者の範囲を狭く解することによって原告らがその範囲外におかれるべきものとしても、弁論の全趣旨に徴し、被告が悪意をもって右指示を奇貨とし、原告らの窮迫に乗じて、これを職場から排除しようとした事実を未だ認めえない点に鑑みれば、被告の一方的意思表示によって原告らを解雇したというのならば格別、しからずして、前記のように合意解約といい、示談契約というも、ともに原告らにおいて、労働契約の効力の消滅という効果を目的とする意思表示を自らもしたものである以上、該契約を無効たらしめる事由となすことはできない。 〔退職-退職願-退職願と心裡留保〕 原告X1他一四名は合意解約の申込を、原告X2他四名は前記示談契約の承諾をいずれも真実その意思がないのに敢えてなしたものであり、被告もこれを知り、または知り得べきであったから民法九三条に該当し無効である旨主張するが、原告X1他一四名の右主張事実はこれを認めるに足る証拠がなく、原告X2他四名の右主張についても、当事者間に争のない、右原告らが被告の退職勧告を拒否しその提供する各給付中の特別退職金を受け得る利益を放棄した事実のみからは、いまだ、原告X2他四名が自ら進んで任意退職の申込をする気になれなかったことを示すに過ぎず、前記示談契約の申込を承諾する真意を欠いたとまで認定することはできず、その他に原告X2らの主張事実を認定するに足る証拠はない。かえって、当事者間に争のない、原告X2らが被告主張の付記ある領収書を差入れた事実、既に認定済の、原告らがその際何らの異議をもとどめることなく、その後講和条約発効を経て本訴にいたるまで文句を言わなかった事実に、《証拠略》を総合すれば、原告らは被告のなした本件通告に不満であったけれども、当時置かれていた原告ら主張のごとき状況の下で利害得失を考慮した挙句、前記合意解約を申込んだりあるいは、前記の示談契約を承諾したりして退職金その他の給付を受けとるのもやむを得ないと考え、真意にもとずいてこれらの行為にいでたものと認められる。 |